高津区版 掲載号:2017年8月18日号
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連載第一〇〇八回 高津物語 「二子大貫病院開設」

 岡本かの子の弟、大貫喜久三氏が書いた『杏林虫語』という本が手元にある。

 その中に、大貫病院の後継者大貫勇二郎氏の一文がある。昭和初期日本に自動車が初めて輸入され、この土地でもその姿が見られるようになって、溝口の岡先生、津田先生等が、思い思いの車を手に入れて往診に使い出した。

 「父も明治の頃にこの土地で初めて自転車を買って乗ったという祖父の新しいものずきの性質を受け継いでか、早速にフランスのシトロエンの小型車(五〇〇cc)を買って乗り始めた。

 しかし、この頃の車は今にして思えば、誠にお粗末の限りで、走ることは走るが故障が多く、田舎道で少し無理をすると、後ろの車軸がねじ切れたり、凸凹道でスプリングがよく折れていつも修理を必要とした。

 これも暫く使った後、久地の無人踏切で南武線と前部を接触して大破したが、父は九死に一生、何の怪我も無くすんだ。

 この大事故にも懲りず後は、イギリスのモーリスマイナーという新小型車を手に入れ、乗り出した。

 が未舗装の道路は雨ふりの時には、凸凹に水溜りが出来て、ここに車の車輪が入ると、泥水を四方に跳ね飛ばし、ひどく汚した。

 五十年前の父の時代の医療と現代の医療とを比べてみると、我々今の医療はすべてに進歩がみられ、幸福であり、治療が楽になった。

 昔は、毎年夏になると、疫痢でいたいけな子供がアッという間にひきつけを起こして死亡して、母親の号泣する声が診察室からよく聞こえた。また、立派な成人がチフスや赤痢で死亡し、冬は老人が肺炎で数日でこの世を去り、医者自身もいつも自己の生命の危険を感じながら、治療しなければならなかった。チフス、コレラ、赤痢等急性伝染病や結核に対する抗生剤の開発、悪性腫瘍治療の進歩が、果たして期待できるだろうか。今、エイズなどという恐ろしい感染症が起っている。さてこれからの治療はどうなるのだろうか」で終わる。

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