神奈川県全域・東京多摩地域の地域情報紙

  • search
  • LINE
  • MailBan
  • X
  • Facebook
  • RSS
麻生区版 公開:2021年8月6日 エリアトップへ

命の尊さ、幸せを願う 8歳で入市被爆 小脇貞子さん

社会

公開:2021年8月6日

  • X
  • LINE
  • hatena
当時の体験を語る小脇さん
当時の体験を語る小脇さん

 「戦争はすべてを破壊する悲惨なもの。それを伝えていきたい」。そう話すのは、区内高石在住の小脇貞子さん(84)。広島市の北部にある可部町出身の小脇さんは、8歳の時に広島の原爆で被爆した。

 小脇さんは、1945年当時、母、4歳離れた姉と可部町で暮らしていた。父親は軍に入隊し外地に赴いていたが、けがの影響で広島県東部の福山の連隊に移ることになり、家族も福山の山の手に移り住んだ。

 この頃、すでに戦局は悪化。国内では空襲が相次ぎ、福山にも軍需工場があったため、米軍の標的になった。「空襲でまちが燃えてね。よく覚えていますよ。山を登って多くの人が家の方に避難してきていました」

 迎えた8月6日。いつもと変わらない朝だった。昼頃に「広島市内が焼けた」という情報が入ってきた。「あの時は原爆だとはわかっていなくて、威力の強い焼夷弾が落とされたんだろうと思っていました」。時間の経過とともに凄惨な状況が伝わってきた。夕方になって動いたのが母親だった。可部町にある自宅を心配し、戻ろうと準備を進めた。

「何もなくなった」

 出発したのは4日ほど経ってから。電車で広島駅をめざしたが、その手前で降ろされ、歩いて向かった。この行動が小脇さんたちの運命を分けた。「入市被爆」。被爆地に残留する放射能を浴びる形になった。「後からわかった話なんですけどね」と当時を語る。

 広島駅に近づくにつれ、知っていた風景が一変。家という家、建物という建物が、がれきになり、生活している人が見当たらない。市内中心部の親戚宅を探したが無残な焼け跡だけ。「何もなくて、ずーっと周りが見渡せるの。これは大変だと思って」。幼な心にはそう感じるだけで、悲壮感を感じる余裕もなく、母親についていくのに精いっぱいだった。

 それからというもの、一部運航していた可部線(電車)や、大八車を乗り継いで、自宅まで帰った。やっとの思いで着くと、見ず知らずの人たちが自分たちの家で生活していた。「びっくりしましたよ。避難してきた3所帯の家族がいたんです」。一間を開けてもらい、共同生活が始まった。福山の時とは異なり、不自由なことばかり。「いろいろなことがあった。炊事や、お風呂も交代で。助け合うしかなかったんです」

 8月15日の玉音放送は、近所の大人数で聞いた。「音も良くなかったし意味がわからなくて。大人が戦争は終わったと言っていたけど、ピンと来なかった。だって、戦争のない生活がどういうものかわからないから」

母の偉大さ

 終戦後、悩まされたのが食糧不足。戦中は配給制だったものの、福山では父親の仲間が何かしらを持って来てくれていたため、そこまで困らなかった。何とかして食料をと、母親は方々尽くして畑を作り、野菜を植えてみんなで分けて食べた。思い出に残っているのがあんパンだ。「畑で採れた小麦をパン屋であんパンに取り換えてもらうんです。とにかくおいしかったですね」と目を細める。

 小脇さんが後になって感じたのは、そうした母親の偉大さだ。「当時30歳を過ぎたばかり。子どもを2人連れて可部に帰ったり、その後の共同生活も畑仕事も。東京の女学校を出たお嬢様だったのに。私だったらできない。すごい人だったと思いますね」

 その後、共同生活していた人たちは、家を出ていき、小脇さん自身も学校を卒業後、地元出身の夫と結婚し上京。40年前に麻生区に転居。その頃から始めた朗読をライフワークとしてきた。

思いを朗読で

 上京してから体調に変化が出始め、次々と大病を患った。姉や母も同様だった。「原爆の影響かも知れないですけど、結び付けて考えてはいません。母も102歳まで生きしましたし、私も元気に過ごしていますから」と気丈にふるまう。

 10年程前、被爆者の会「川崎市折鶴の会」に誘われて入会した。「みんなで集まって鶴を折って、会長の森政忠雄さんの講演活動を手伝ったりするのが楽しくて」

 9月26日(日)に「平和を願う会」が主催するイベント「平和へのバトン」で、被爆者・和久井和子さんの手記をもとにした朗読劇に出演する。「戦争は何もかも破壊し、今までのことを全部なくす悲惨なもの。せっかく生まれてきた命、幸せを壊すことがないように伝えていきたい」。平和の尊さを次世代へ語り継ぐ。

麻生区版のローカルニュース最新6

旧黒川村を散策

旧黒川村を散策

5月11日 麻生観光協会

3月29日

気持ちの良い麻生川へ

川崎麻生RC

気持ちの良い麻生川へ

桜まつりに向け清掃

3月29日

合同美術展で連携を

合同美術展で連携を

王禅寺団地自治会館で

3月29日

23年度「最も活躍した子」に

上麻生在住今井結菜さん

23年度「最も活躍した子」に

地域団体から表彰

3月29日

麻生の歴史を絵本に

川崎新都心街づくり財団

麻生の歴史を絵本に

市内全小学校へ寄贈予定

3月29日

「災害時、開いてます」

市薬剤師会

「災害時、開いてます」

436店舗で一斉防災訓練

3月29日

意見広告・議会報告政治の村

あっとほーむデスク

  • 3月29日0:00更新

  • 3月1日0:00更新

  • 1月19日0:00更新

麻生区版のあっとほーむデスク一覧へ

コラム一覧へ

麻生区版のコラム一覧へ

バックナンバー最新号:2024年3月29日号

もっと見る

閉じる

お問い合わせ

外部リンク

Twitter

Facebook