川崎市のふるさと納税返礼品や、郵便局のふるさと小包にも選ばれるなど、麻生区の名物として定着している「防空壕きくらげ」。一見不思議な組み合わせのその名前は、かつての「防空壕」で生産されたものだ。
生産しているのは、ヒーター線を製造・販売する(株)熱源の小山仁美さん(53)。「食卓で防空壕や、学童疎開について話すきっかけになってほしくて」と商品名を決めた理由を語る。
2013年に同社が栗木の山林を購入。地元の人から、かつて防空壕があったことを聞かされ、調べてみると斜面に穴が空いていた。ほとんど土で埋まった状態だったが、土を落として中に入ってみると広い空間が広がっていた。「ひんやりしていて、土の匂いだけ。時が止まっている感じだった。つるはしの跡も残っていて、誰かを守るための場所だったんだと感慨深かった」と小山さんは当時を振り返る。
疎開児用に掘られた
小山さんが文献を調べていくと、大島国民学校(現・大島小学校、川崎区)4・5年生の女子児童39人が近くの常念寺に学童疎開をし、避難用に旧日本軍が掘ったものであるらしいとわかった。本来であれば埋めるところだが、「残そう」と補修工事を決めた。工事看板を見た近くの学生が防空壕のことを知らなかったこともあり「余計残した方が良い」と思った。入口までの通路を整備し、入口や中を補強。長さ13メートル、高さ2メートル、幅3メートルの空間となった。
工事が終わった後は「防空壕があることを発信する方法がわからなかったので、そのままにしていた」と小山さん。1年半程経ってから、JAセレサ川崎とのつながりで、防空壕でしいたけの栽培を勧められた。しばらくやってみたが、より環境に適している、きくらげ栽培に切り替えた。肉厚のきくらげの品質と、その名前で注目を集め、さまざまな媒体で取り上げられるように。同時に防空壕の存在も広まっていった。
思いを次代に
学校の自由研究で防空壕の事を知りたいと連絡してくる子どももいるという。その際には、学童疎開のことなど、小山さんが調べたことを話すようにしている。「親元を離れて子どもたちだけで生活をすることがどれだけのことか。戦争がどういうことになるのか、きくらげを通じて伝えていきたい」と話している。
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