さがみはら南区 トップニュース社会
公開日:2025.11.20
全盲の中学生ボクサー
「困ってる人に一言を」
かつての同級生に授業
アイマスクを付けた少年が巧みに攻撃をかわし、勢いよくパンチを決める――。南橋本在住の中学2年生、工藤聖真さんが10月31日、小山中学校の体育館で視覚を使わない「ブラインドボクシング(R)」を披露した。小学4年生で全盲になった工藤さんが、かつて同じ小学校に通った同級生たちの前で「共生社会」をテーマに自身の考えを語った。
音頼りにパンチ
ブラインドボクシング(R)は、目が見える相手役に装着された鈴の音・空気の動きを頼りに位置関係と距離を把握し、パンチや防御を行う競技。殴り合うのではなく、フットワークやパンチの有効性などを競う。
工藤さんはこの日、元プロボクサーで一般社団法人ブラインドボクシング(R)協会の村松竜二代表理事とともにミット打ちとスパーリングを5分ほど披露した。攻撃をかわすと体育館にどよめきが起こり、実際に体験した生徒は「怖かった」「見えないけど当たった時の感触や音がうれしい」などと話していた。
工藤さんは授業後、「ブラインドボクシング(R)は素晴らしい競技。驚きや感動を伝えられる。多くの人に広めたかった」と話した。
同協会は子どもたちへの授業に力を入れている。村松代表理事は「私は20歳で左手首が曲がらなくなったが、障害者手帳を取得したのは45歳になってから。最初は障害者って思われるのが怖かった。自分が障害を理解するのに25年かかったんだから、子どもたちに伝える活動をすることで、共生社会になると確信している」と語った。
工藤さんの母は「私は障害者の母であり、晴眼者(視覚に障害がない人)の母でもある。両方の感覚が分かるからこそ、伝えられることがあるのではないかと思った」と話す。
「優しさって時々...」
工藤さんは生まれつき片目が見えず、もう一方の目も小山小学校に在籍していた頃にがんを発症し、視力を失った。現在は都内の視覚特別支援学校に通っている。
ブラインドボクシング(R)に出会ったのは小学5年生の春。視覚が使えなくなって「イライラして発散する場がなかった。精神がやばかった」頃で、ボクシングがストレスをぶつける場になったという。現在は月に数回、2時間程度の練習をしている。
特別授業は、相模原市社会福祉協議会との連携で実現した。「共生社会」「世界平和」という授業テーマだったが、工藤さんは日頃の生活の中で感じたことを踏まえ等身大の言葉で語った。
「優しさって、時々事故る。中学1年生のとき、クラスメートがいじられて拗ねてロッカーに入って出てこなくなったことがある。『大丈夫?』って言ったけど、『喋り掛けないで』って言われた。でもそのあと、『声掛けてくれてありがとう』と言われたから、悲しんでいる人や困っている人がいたら一回声を掛けるのが大事だと思った」と実体験を紹介。「お年寄りや障害者など困っている人がいたら『何かお手伝いすることありますか』と一言声を掛けるのはどうでしょうか」と呼び掛けた。
9日、全国優勝
工藤さんは11月9日、都内で開催された全国大会に出場した。最年少で前回王者に1点差で勝利し12人中1位に輝いた。工藤さんは「全部の試合どれもめっちゃ緊張したけど、全力を出し切って優勝することができた。これからもチャンピオンの座を守り続けていけるよう練習を頑張っていきたい」とコメントした。
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