水辺生態系の保全活動に取り組む「三浦半島田んぼプロジェクト」の共同代表を務める 天白(てんぱく)牧夫さん 阿部倉在住 25歳
「復田」その先の願い
○…緑が広がる長沢の一角で先月、泥まみれになった子どもの歓声が響いた。手には稲の苗。「どうやって植えるの?」と質問攻めにあう。ここは数年前まで休耕田だった。地権者の理解を得て開墾し、田んぼを復活させたのがプロジェクトのメンバーだ。田植え体験イベントには100名が参加する盛況ぶり。だが復田はあくまでも手段で、目的ではない。水田生態系の復活こそが、目指すべき所だ。
○…「小さい頃、近所のしょうぶ園に虫取り網を持って遊びに行きました」。季節は秋。一度に20匹のトンボを捕まえた光景が鮮やかに蘇る。ふいに、表情が曇る。「それがいつの間にかパタッといなくなったんです」。埋め立てや開発による水田の減少に伴い、三浦半島ではこの50年でカメ、メダカ、カエルなど田んぼをより所とする生き物が激減した。実体験でも感じた。水辺の生態系を守るにはどうすれば良いのか。導き出したひとつの答えは、「田んぼが復活すれば彼らも戻ってくる」ということだ。
○…運命的な出会いもあった。池上中2年の時、市立博物館初代学芸員でもある柴田敏隆さんの講演会が校内で行われた。自然や動物と会話する柴田さんの話は「衝撃でした」と振り返る。以来、毎週のように柴田さんの自然観察会に同行。また仲間同士で生き物調査にも乗り出した。もはや「三浦半島で歩いていない緑は無い」という。現在は環境学習の講師として後進の育成にあたるほか、日本大学大学院で両生類や爬虫類の緑地環境での”生き様”を専門に研究している。
○…三浦半島の田んぼのシンボルを教えてくれたのは、「夢」を尋ねた時。生態系のトップでもあるサシバ(タカ科)は10年前に姿を消したという。狩りの縄張りとなる田んぼが無いと判断されたからだ。「ここに住んでやってもいいかと思わせたいですね」と、意思疎通したかのように語る。課題は山積み。責任も重い。だが、選んだ道に迷いは無い。
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