日本の近代産業の礎を築き、今年、鍬入れから150年の節目を迎えた横須賀製鉄(造船)所。その建設の功労者で、所内に構えた技術者養成学校「黌舎(こうしゃ)」の長でもあったヴェルニーの署名入り卒業証明書が先月29日、製鉄所関連の講座内でお披露目された。関係者によると「現時点では唯一の現存品」という。
黌舎とは、製鉄所建設に際し、造船技術や機械学、製図法など、日本技師の育成を目的に設立された教育施設。製鉄所首長だったヴェルニーなどが、将来を担う人材育成の重要性を幕府に提言。ヴェルニー自身も修学したパリの技術者養成学校「エコール・ポリテクニク」を参考に、第1号ドックが完成する前年の1870(明治3)年に開設した。入学資格は原則として13歳から20歳までで、衣食住は官給制。製鉄所内の公用語だったフランス語の習得にも力を入れ、当時としては最先端の教育環境が整っていた。
この日、西逸見町のウェルシティで行われた製鉄所関連の講座内で、約90人の受講者に対して初めて公開されたのは、明治8年に発行された卒業証明書の原本。講師を務める『横須賀の文化遺産を考える会』が、卒業した本人である長瀬牛五郎氏の子孫から借り受けたもの。右側には個人成績表と「L.VERNY」と書かれた直筆署名、左側には卒業年月日と造船所印が押されている。複写品は横須賀市自然・人文博物館に展示されているが、「本物だからこそ学べることがある」と同講座内で特別に展示することになった。
同舎は1888(明治21)年に閉校するまで、約100人が卒業。海運省や大蔵省、外務省などへの入省者が多いことや、100人に数人程度しか入学が認められなかったことから、「エリート学校」とも評されていた。同会代表の長浜つぐおさんは、「授業についてゆけず”卒業は至難”と言われていただけに、まず枚数が少ない。現時点で発見されているのはこの一枚のみ」と説明した。受講者の70代男性は「紙質から歴史の重みを感じる。現物を見ることができて感慨深い」と話した。
同講座ではこのほかにも、入学許可証や当時使われていた仏英対尺表、生徒がメートル法を用い描いた船の設計図など、同会所有の品々を展示。証明書原本の今後の公開は未定だが、「製鉄所成立の背景を物語る貴重な品。複写品でも一度見てほしい」と長浜さんは話している。
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