作品集「群衆に紛れて」を出版した写真家 北野 謙太さん 横須賀市池上在住 29歳
記憶に残らない記録
○…都会の喧噪は熱く、冷たい。ハロウィーンの渋谷駅前で群衆をとらえた1枚のモノクロ写真はむせかえるほどの熱気を感じさせながら、被写体の向かう先や目線はばらばらでどこか無機質だ。人混みは苦手だし嫌いだ。でも、不思議な魅力がある。処女作として世に送り出した作品集はそんな感性を起点に「群衆に紛れて」と題した。
○…大学工学部を経て大学院を修了し、一度は就職するも希望した仕事との乖離に堪えられず、わずか1カ月で退職。在学時に嗜んだカメラに本格的に向き合おうと数年間、音楽バンドを被写体に撮影を続けたが身が入らない。正直、くすぶっていた。昨夏、友人に「本気度が足りないのでは」と核心をつかれ、カチンときた。その日以来、1日600枚以上の撮影を自らに課し、目についたものを片っ端から撮りまくった。看板、雑踏、落書き―。1カ月で実に2万枚以上。体重が5キロ落ちる苦行だったが、ファインダー越しに見る景色が研ぎ澄まされていく気がした。
○…横須賀に生まれ育った生粋のすかっ子。現在はバンドマンの友人とシェアハウスで共同生活を送る。かつては自らもバンドマンでベースを弾いた時期も。現在はアルバイトで生計を支えながら暇さえあれば撮影に出かけ、創作活動に全エネルギーを注ぎ込む。
○…コンセプトは「記憶に残らない瞬間を記録する」。人は出発や目的地での「点」の記憶は鮮明だが、無意識化にある移動中の「線」の記憶は大抵あいまいだ。その線上にいる都会の群衆にレンズを向けた瞬間が、写真家としての軸足になると予感している。「撮り続けるしかない。これが僕のアイデンティティーだから」。写真家として生きていく。その覚悟が光った。
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