横須賀・三浦 コラム
公開日:2025.02.28
OGURIをあるく
〜小栗上野介をめぐる旅〜第36回 横浜編【3】文・写真 藤野浩章
「岩石でござるか。これは頼もしい」(第四章)
◇
「栗本どのはグラン・マロン、小栗どのはプチ・マロンだと、公使は言っています」--こんなセリフが登場するように、神奈川宿(しゅく)で今も存在する甚行(じんぎょう)寺での仏公使ロッシュとの話し合いは良い雰囲気だったようだ。
それはもちろん、栗本瀬兵衛(せへえ)が通訳カションを通じてロッシュとも懇意にしていたことに加え、小栗と栗本のタッグがあったことも大きい。ちなみにロッシュは仏語で「岩石」。それで冒頭のセリフが登場する。
この交渉で仏側は建設に全面的に協力するという意向を示し、正式な回答は翌月に届いた。しかも具体的な検討が加えられ、最後に"利を好むより名誉を重んじ、貴国との信義を尊とぶ"ゆえに協力するとあった。
「理に叶(かな)った提案と思うがの。さすがお岩どのじゃ」と小栗は胸をなで下ろすが、フランスに下心が無かったわけではない。それは日本の生糸の独占だ。
もちろん小栗らは分かっていて、他国の激しい横やりが入る事を見込んでのタフな交渉をしていたとも言える。とにもかくにも、仏側に日本人を見下すような意図は見られなかったのが、とかく武器を売りつけようとゴリ押しする英蘭との決定的な違いだった。
さらに小栗は、小野友五郎を伴って仏海軍の軍艦に乗って詳細に検分するなど、慎重だった。感情に流されず、材料を集めて現実的に判断するのは、小栗の真骨頂だ。
ところで、仏の回答に1人の人物の名が初登場する。フランソア・レオン・ヴェルニー。横須賀との長い付き合いの始まりだった。
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