「須藤オルガン工房」の主宰者で現在、横須賀美術館で特集展示が行われている 須藤 宏さん 横須賀市根岸町在住 79歳
信念は細部に宿る
○…デザインから設計、工作、整音、調律にいたるまでオルガン製作に携わり約60年。公共施設や大聖堂、劇場などこれまで20余台のオルガンを手掛けてきた。「納期が遅れても、赤字になっても、質の良い品をつくりあげる」。決して手を抜かず、真正面から向き合う姿勢が仕事の信条だ。
○…三浦郡逗子町(現逗子市)生まれ。雑誌や専門誌などから情報を得ては、アマチュア無線機をつくるなど子ども時代からモノを作ることには一層心を惹かれた。オルガンとの出合いは中学生の頃。当時では珍しい電子オルガンを目にした時だった。「構造はどうなっているのか」「どうすれば動くのか」。調べ、尋ね、手を動かしてみる。幼い頃から醸成されたモノづくりへの好奇心が入口となり、作り手への道を切り拓いた。
○…大学卒業後は国内とドイツの製作所で経験を積み、1977年には同国で日本人初の「オルガン製作マイスター」に認定。帰国後に工房を開き、日夜作業に没頭する日々を送る。少しの手抜かりがあった自身の過去の作品を顧み「やり直しはいとわない。完成間近でもひずみがあれば一からつくる」と強く心に誓う。
○…30数年ほど前に受けた新設の公共施設に設置するパイプオルガンの依頼では、地元の楽器代理店から、依頼主との間の仲介を迫られることに。しかし「商行為の費用があるならば、製作につぎ込みたい」と信条を貫き、依頼を完遂。「あなたは正しかった」。落成式では代理店の社長からそう告げられた。依頼者の声と、製作に真摯に向き合う姿勢を見てなのか。「あの言葉は嬉しかったね」。信ずるところに従うことで物事は良い方向に動く。信念は曲げない。
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