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連載 第33回「油壷と『黒い福音』のこと」 三浦の咄(はなし)いろいろ みうら観光ボランティアガイド 田中健介

掲載号:2019年2月8日号

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夕日の荒井浜と観光船乗り場跡
夕日の荒井浜と観光船乗り場跡

 松本清張著の小説『黒い福音』は、昭和三十四年に起こった「スチュワーデス殺人事件」にもとづいて書かれたものです。

 事件は三月十日早朝、東京都杉並区大宮町の善福寺川で女の死体が発見され、持ち物から世田谷区松原町に住む武川知子さん(27)で、英国海外航空のスチュワーデスであることがわかったのですが、解剖結果から他殺と判定されて大騒ぎとなったのです。捜査線上に最後まで残ったのが、知子さんが生前に出入りしていたカソリック教会のベルギー人神父でした。相手が外国人であるだけに国際問題にもなりかねないと慎重に捜査をして、当人に出頭を求めたのですが応ぜず、教会も組織をあげて出頭を拒否し、問題の神父は当局へ何の連絡もせず羽田から飛行機で本国へ帰ってしまったのです。(以上、昭和三十五版『朝日年鑑』より)

 『黒い福音』(角川文庫)の「解説」(小松伸六)によると、この小説に登場する神父のトルベックは、貧しい家に生まれ、密入国してきた宗教学生あがりの若い美男の神父だが、生田世津子のような〈神への奉仕〉のためダミアノ・ホームを手伝った女性たちと、次々にあやまちを犯してゆく人物として描かれています。小説の中で、後ちに殺される生田世津子との関係が深まる切っ掛けになった場所が「油壷」なのです。

 「バジリオ宗派では、春と秋の季節に、日帰りのピクニックをする信徒の親睦会があった。(中略)その春は、三浦三崎に行楽地が決った。グリエルモ教会の信者たちは八十八人ばかり、二台のバスに乗って、朝早く、東京を出発した。(中略)この二台のバスが三浦半島の突端の油壷に着いたのは、ひる前であった。そこで、八十八人の会員は、幾つものグループに分れて、帰るまで楽しく過ごすのである。(中略)ここでも、トルベックと生田世津子は孤独であった。(中略)渚(なぎさ)に貝を拾う者もあれば、岩の上で車座になり、隠し芸をする者もあった。そこからは、城ヶ島行の小さな船が発着するのが見えた。それに乗って島に向う組もあった。(中略)トルベックは、独りで浜辺を歩いていた。新任の神父の哀(かな)しさには、誰れも寄って来る者がない。(中略)この同じ孤立的な立場がトルベックと世津子を接近させたと言えるのである。(中略)ところで、江原ヤス子は、ルネ・ビリエ師と肩を並べて、海岸の上の小さな丘を登っていた。木も茂り、眺望も展(ひら)けない山の小径である。(中略)入江に向かってなだらかな傾斜がある。そこは二人の足下だったが、茂みの間を降りて行く黒い聖職服と明るいグレーのスーツが見えた。」

 この二人がトルベックと世津子なのです。

(つづく)
 

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