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三浦版 公開:2020年3月20日 エリアトップへ

連載 第57回「油壺のこと【1】」 三浦の咄(はなし)いろいろ みうら観光ボランティアガイド 田中健介

公開:2020年3月20日

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 小網代に渡った眉山は冬の寒さに耐えられず、酒を求めて油壷の地をめぐるのであります。

 「いと寒ければ、酒ある家に就(つ)きて、手に一升を提(さ)げて、荒井(新井)の城址を尋ねつつ行く。歩武(ほぶ)(足どり)数百(すうひゃく)、麦(むぎ)作り菜(な)作る方を過ぎて、松林の中に入る。ここに荒次郎の墓あり。太龍院殿云々(うんぬん)と言ふ。嗚呼(ああ)半生の勇士、其名(そのな)は八洲(やしま)(日本国の異名)に震(ふる)ひ、其(その)力は万夫(ばんぷ)(多くの武士)に当りけるが、徑(みち)は荊棘(けいきょく)(国難なたとえ)に乱れて松籟(松にふく風の音)ただ昔の夢を吹く。うら淋(さび)しき塚の主や。いにし(昔)永正十三年(1516年)なりけむ。油壷の波を紅(くれない)にしける御身(おんみ)が末路(まつろ)(一生の終わり)も亦(また)悲しかりき。時を隔(へだ)つること四百歳(さい)、ここに来(きた)つて御身(おんみ)を弔(とむら)ふ、契(ちぎり)(定められた運命)浅(あさ)しとせむや。と花は無ければ、路傍(ろぼう)(道ばた)の枝を折り掛(か)けて、一傾の酒を属(ぞく)して(かけて)出づ。」と記しています。

 その名を八州に知られたとありますが、この場合は「関東の八州で、相模はもとより、武蔵(現東京都と一部埼玉県)、安房(あわ)、上総(かずさ)、下総(しもうさ)、(現千葉県)、常陸(ひたち)(現茨城県)、下野(しもつけ)(現栃木県)、上野(こうずけ)(現群馬県)のことではないでしょうか。

 その勇士「三浦荒次郎義意(よしもと)の勇猛果敢(ゆうもうかかん)な様子を『北条五代記』に記されている様子を見てみましょう。 

 「道寸の子息荒治郎は八十五人力(りき)と聞(きこ)えたる若武者、身の丈(たけ)七尺五寸(約2m25cm)髭(ひげ)黒く筋骨太く、逞(たくま)しき。その出立厚(いでたちあつ)さ二分(にぶ)(約6ミリ)に鍛(きた)えたる鉄の鎧(よろい)を着て竜頭の甲(かぶと)、月毛(つきげ)(白い毛に黒茶などまじり、やゝ赤みがかった毛色)の駒(こま)にふくりん(へりを金銀などで飾った)の鞍置(くらおき)て、ゆらりと打ち乗り、家に伝(つたわ)る五尺八寸(約1・7m)正宗(まさむね)の刀を抜きかざし寄手の真中へ、わめいて駆け入り、敵を選(え)らばず駆け廻(まわ)る。此の勢(いきお)に寄手(よせて)の軍勢二町(約218m)ばかりも引き退(しりぞ)く。」と書かれています。

 勇猛果敢な荒治郎でありましたが、このときには、手負いや死人が道路に満ちて、新井城の内でも、差しちがいや自害をする者がでてきます。城主である三浦道寸も辞世の和歌を一首詠じた後(のち)、切腹をして果てたのです。荒治郎は父道寸の介借(かいしゃく)をし、『やがて追いつき奉(たてまつ)らん』と言って、唯一人(ただひとり)歩いて、一丈二尺(3・6m)の棒を八角に削って筋金(すじがね)を渡したものを引提(ひきさげ)て城門を出て、一振(ひとふり)にて五人八人を倒し、やがて、城に帰り、自ら首をかき落として死んだと言われています。しかし、その首は小田原(敵方北条氏の城下)へ飛んで行き、北条家の松の枝に掛かり、昼夜にらみつづけていたと言われています。

(つづく)
 

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