逗子の景観まちづくり瓦版 第十五号
居心地の良い場所逗子市郷土資料館中村 晴美
木漏れ日の差すつづら折りの道を登ると、丘の上に建つ木造平屋瓦葺の建物が出迎えてくれる。そこが徳川家第十六代当主徳川家達公の別荘、現逗子市郷土資料館である。
中に入ると逗子に居を構えた文士の作品の数々、徳富蘇峰、蘆花兄弟のゆかりの品々や郷土の歴史コーナーなどの貴重な展示物を見る事が出来る。もちろんそれら全て皆素晴らしい物ばかりだが、実はこの建物そのものにも興味深い仕掛けが所々に隠されている。長い一本の天然木を使って遠近法による廊下を奥深く見せる工夫や、西側の部屋ではすりガラスの巧みな配置により眩しい西日を遮りつつも明るく暖かな部屋を作り上げている。
また海側の部屋に出れば海風が千本格子を通り抜け夏場は天然のクーラーのごとき涼しさで、息を切らして丘を登り汗ばんだ身体に爽やかな涼を運んでくれる。またこれには物を立体的に見せる3Dの効果がある。三月の半ば奥庭の花桃と黄梅が咲く頃の格子戸越しに見る景色の美しさたるや、筆舌に尽くしがたい。そして何と言ってもこの邸から望む逗子湾の素晴らしいこと。正面に富士山と江の島、その左には箱根連山、右に佇む大崎の岬の奥には丹沢の山麓が広がる。まるで神奈川県の風光明媚な場所をここで一望できるようだ。
そして最後に長火鉢前の畳に正座し海を眺めると誰もが感嘆の声をあげずにはいられないだろう。まるで海上に浮かぶ邸のようだ。昔の人々の知恵と遊び心、そしてゆったりと流れる時の過ごし方がここにある。
瓦版第15号平成25年
7月18日発行より転載
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