逗子の景観まちづくり瓦版 第二十四号
不如帰の石碑文・絵 大河原 聡
披露山をずっと下って降りると、海が広がっている。その防波堤の向こうに海面から突き出た石碑が見える。そのイカツイ岩肌には独特の文字が刻まれている。「不如帰」の石碑である。
不如帰は逗子になじみの深い徳富蘆花の名作、浪子の薄幸な生涯の物語である。逗子を舞台にした文学作品には国木田独歩、泉鏡花などの名作が数多くあるが、蘆花の不如帰が最も有名ではないか?
田超川沿いの小道を登ると静かなたたずまいの蘆花記念公園もある(ここで5年前に娘の保育園の卒園式があった)。こうした記念碑に気付かず通り過ぎてしまうことが日常には多い。
波打つ黒い海面から力強く突き出す石碑からは
「もう二度と女なんかに生れはしない。
千年も万年も生きたいわ。」
と吐いて死んでいった今では考えられないようなセリフを残した、明治女性の生への激しい渇望を感じる。急な山の斜面には石碑を見守るように浪子不動もある。
そう言えばこの反対側には、石原慎太郎の「太陽の季節」の文学碑がある。金ピカの慎太郎の碑が太陽(・・)なら、こちらはさしずめ静寂な月の碑(・・・)なのかもしれない。
私は少しぬるくなった缶ビールをリュックから取り出し、しばらくぼんやりと海を眺めていた。すると、石碑の上に白い海鳥が止まった。
瓦版第24号平成26年
2月17日発行より転載
|
<PR>
|
|
|
|
|
|