今月20日、写真集「NEW YORK」を刊行した写真家 松尾 忠男さん 鵠沼東在住 71歳
写真こそ我が人生
○…そこは80年代初頭のニューヨーク。流行最先端の洋服を着た華やかなマネキンとは対照的に、ショーケースには鬱屈としたビル群や人々の雑踏が写り込む。1枚の写真上に表現した「上流階級(幻想)と現実」。その対比が強烈な存在感を漂わせる。昨年末に発表した「マンハッタン」に続くNY編第二弾。若き日にとらえた一瞬を現在の感性で紡ぎ直した。
○…キャリアのスタートは27歳のとき。当時アシスタントをしていた写真家の付き添いで、著名なアメリカ人女性写真家と談笑を交わしたのがきっかけだ。「話が盛り上がるうち、お酒が入っていたし、つい『1年後にはアメリカに行く』と約束しちゃって」。社交辞令と流さなかったのは、海の向こうに大成する夢が見えたからなのかもしれない。その後”公言”通り渡米し、ロス、NYと渡り歩きながら3年近くシャッターを切り続けた。時には薬物中毒者や娼婦と相対し、身を危険にさらしたことも。それらの経験も写真家としての血肉に変えた。
○…写真集の発刊は当初、終活のつもりだった。60歳のときに大病を患い、その後10年近くうつ病で創作から離れたが、病状が安定すると意欲が噴き出した。「未発表のものがまだ200本はある。これ(写真集)を片付けて、早く次にかかりたいんですよ」。今年7月には故郷の山口県光市で回顧展も控える。
○…人生のシーンごとに様々な表現に挑戦してきた。先鋭さが際立つのは、インクの流動性やデジタル技術を活用した「N次元シリーズ」。シャッターさえ切らない独自の技法は、不思議と観る者を惹きつける。「時代は変わりますから。50年後、ようやく時代の感性が作品に追い付いてくるかも」。そう言って微笑んだ。
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