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藤沢 スポーツ

公開日:2022.04.01

「青春の味」支え67年
片瀬中にパン配達「湘南堂」

  • パンの受け渡しをする生徒と五島さん

  • イラストの看板娘は嫁いだ頃の五島さんがモデル

 「青春時代を振り返る時、忘れられない味がある」と片瀬中学校卒業生がこぞってあげるものがある。地元のパン製造販売店「湘南堂」が届ける菓子パンや総菜パンだ。同校への配達販売を続け67年。代表取締役で「看板娘」の五島三江さん(78)は、当時から変わらない味を届けながら、地域の子どもたちの成長を見守り続けている。

 きっかけは同校が現在の片瀬山に移る前、1947年の開校までさかのぼる。片瀬の東京螺子製作所に開校した同校。当時は給食制度開始以前で、昼食はそれぞれが自宅から持参する仕組みだった。

 湘南堂はその10年前に開店。道路を挟んで向かいにあり、昼休みになると生徒らが買いに走る姿が定番だった。信号も整備されていない時代、工場車両などの通行も多く、事故を懸念した学校が同店に相談し、出張販売が始まった。

 当時の人気メニューは「甘食」。現在一般的な山型の菓子パンではなく、菓子パン素材を渦巻き状に巻いた形で、大きさの割に値段も安く争奪戦になることもあったという。同校同窓会会長の中村喬さん(82)は「甘いものが少ない時代、貴重で贅沢な幸せの味でした」と振り返る。

 中学校の弁当給食注文が始まってからは購入者も減り、現在は前日までの注文制で販売している。昼食用だけでなく、部活のエネルギー補給や自習時のおやつ代わりに買いに来る生徒も多い。同校の男子生徒は「アンパンが好き。思い出して食べたくなる味」と笑顔を見せる。

 時代に合わせメニューの入れ替わりはあるが、手作りにこだわり、アンパンやクリームパンなどのレシピは昔の製法のまま。卒業生が片瀬海岸の本店に立ち寄り懐かしんで購入したり、同窓会用の注文が入ることもあるという。中村さんは「変わらない味なんだけど、思い出の味が一番おいしかった気がして」と笑う。

 「今日の授業はどうだった」「美味しく食べてね」と受け取りに来る生徒一人ひとりの顔を見ながら優しく声をかける五島さん。嫁いで以来、夫と共に配達と販売を続けてきた。

 「常連生徒」は顔や名前、好きだったパンまで数十年経っても覚えているといい、3世代に渡っての生徒は顔立ちと名字から親を言い当てられるほど。いつでも笑顔で応対する姿は生徒からも慕われている。

 「袋からパンを出した時の笑顔や、『おいしかった』の声に元気をもらっている。これからも子どもたちを見守り続けたい」と目を細めた。

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