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藤沢 社会

公開日:2022.09.30

「同じ思いしてほしくない」
被害者の女性ら手口語る

  • 詐欺被害に遭った自らの体験を語る80代女性

  • ATMの画面。振り込む際は詐欺への注意を促す警告が表示される

 年々手口が巧妙化している特殊詐欺。藤沢市内でもオレオレ詐欺などの存在は知りながら被害に遭う人が後を絶たない。今年8月末までの被害件数は、藤沢署と藤沢北署を合わせて61件、被害総額は7876万円にのぼる。犯人はどのような手口で大金をかすめとるのか。本紙の取材に対し、実際に市内で被害に遭った女性2人が根絶につながるならと重い口を開いた。いずれも「自分と同じ思いをしてほしくない」と願っている。

 5月下旬の朝8時過ぎ、80代女性宅の固定電話が鳴った。「俺だけど、玄関に何が置いてあるか見てみて」 

 何の不信感もなく、息子だと思い込んだ。玄関先を確認すると何もない。その旨を伝えると、「それならいい。ところで、今うちにお金どのくらいあるかな」。

 息子をかたる男の話はこうだ。喫茶店で会社の大事な書類が入った鞄を盗まれた。手続きには時間がかかり、会社の損失を賄うために金がいる。いくらかでも工面できないか-。典型的なオレオレ詐欺の手口だった。

 同じ日の午後にまた電話が鳴り、預金残高を確認された。電話を切ってしばらくすると、今度は会社の直属の上司にあたるという「サイトウ」と名乗る男からだった。

 「会社に与える影響は深刻で、自分も親に相談して1千万円を用意した。お宅にも工面してもらいたい」

 この時、夫は違和感を持った。「息子は転勤族で定年も近い。そんな上司の話も聞いたことがない」。妻に忠告したが、この間、警察官を名乗る男からも連絡があり、妻は気が動転し冷静な判断が下せなくなっていた。

 20万円を銀行預金から下ろし、家中から現金をかき集めて70万円を用意。夜、女性が指定された横浜市の公園に着いてしばらくすると、ズボンとシャツ姿の30〜40代の男が周囲をうかがっている。こちらに気が付くと目の前に立ち無言で手を差し出してきた。怖さが募り、封筒を手渡すと男は立ち去って行った。

詐欺と疑うも

 女性は特殊詐欺やオレオレ詐欺の手口はテレビや知人との話で知っているつもりだった。以前かかってきた電話が途中で詐欺と気が付き、相手を翻弄したこともある。

 なぜだまされてしまったのか。女性は自分の弱さが原因だと悲観する。「元々強く言われると自分に非があると考えてしまう。高齢になり、自分の判断に自信もない」

 実は受け渡し場所に向かう前、詐欺を疑い、何度も交番で打ち明けようかと悩んだ。だがその度に揺らいだのは息子を案じる親心からだった。「もし間違いであればいい。でも、息子にもしものことがあれば」。だまされたのは自分が悪いと言い聞かせている。でも、やはり許せない。

 「年寄りは孤独でさびしい。犯人はそんな心の隙を突いてくる。少しでもおかしいと感じたら、すぐに警察に相談してほしい」と自らの体験を踏まえて呼び掛ける。

 被害後、夫婦は迷惑電話防止機器を購入して電話に取り付けた。以降、詐欺と思われる電話はかかってきていないという。

還付のはずが200万円失う

 市内に家族3人で暮らす70代女性宅に藤沢市健康保険課の職員をかたる「フクザワ」から電話があったのが、7月初旬のことだった。

 「2万3800円の医療費還付がある。自宅に青い紙が届いているはずだが、申請したか」

 覚えがないことを伝えると「後で銀行から連絡がいく」と言われ、しばらくすると大手銀行の職員を名乗る別の男から電話がかかってきた。「期限が過ぎているが、今日中なら処理できる。今から指示をするので、近くにあるコンビニのATMで言われた通りに操作してほしい」

 夫とともにコンビニに到着すると、携帯電話越しに聞こえる男の声に従ってATMを操作した。一通りの作業が完了したことを伝えると、「入力内容が誤っているので、もう一度同じ作業をしてほしい」。この時、不審に思った夫が「おかしいんじゃないか」と背中越しに制止したが、女性は操作に夢中で声が耳に入らなかった。

 結果、2度にわたって計約200万円を送金。直後に記帳して振り込みをしていたことに気づき、電話をかけ直すと男はこう言い放った。

 「うちにも生活があるので(お金は)いただきます」

 その後、銀行に掛け合い還付金詐欺だったと分かったが、後の祭りだった。

誰かに打ち明けて

 無駄使いを避け、老後の積み立ても兼ねて何年もかけて貯金してきた。それが一瞬にしてだまし取られた。

 「悔しくて自分が情けない。なぜ気づけなかったのか」。今になって思えば、ヒントはあった。ATMの操作に手間取っていると男が突然「そうじゃねぇだろ」と声を荒げたり、着信履歴は都内の局番だった。それでも巧みな言葉に誘導され、周囲が見えなくなっていた。

 被害に遭ってからというもの、電話を取るのが恐ろしい。心配をかけたくないと、同居する息子にも伝えられないでいる。

 水際の被害防止について、老夫婦はこう呼び掛けた。

 「犯人とのやり取りを一人で完結させないことが大事。誰かに相談できれば冷静になれる。一度電話を切る勇気を持ってほしい」

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