港南区・栄区 文化
公開日:2026.01.01
人間国宝 大坪さん(港南区在住)
伝統を次世代へつなぐ
能楽師の使命を果たす
港南区在住で能楽師の大坪喜美雄(本名:近司/78歳)さんは2022年に国の重要無形文化財保持者(通称:人間国宝)に認定され、現在も日本各地で能を披露している。また、講師として後進の育成にも努めている。本紙では新年の特別企画として、大坪さんにこれまでの道のりや展望を聞いた。
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能とは室町時代に成立した演劇。幽霊、天狗や鬼などが多く登場するのが特徴だ。能楽師はシテ(主役)を演じる「シテ方」、ワキを演じる「ワキ方」などのグループに分かれる。大坪さんは5つあるシテ方の流派の一つ「宝生流」の達人。200人ほどの流派で人間国宝に認定されているのは大坪さんのみ。能楽界全体でも数人しかいない希少な存在だ。
礼儀を教わる
出身は東京都。幼い頃に両親が離婚し、転居を重ねていたが12歳の時に能楽師の伯父が近くに住む荻窪に引っ越したことが転機となった。
「『親戚に能をやっている人がいる』くらいの認識だった」と語るように、特に能との接点は無かった大坪さん。「当時、跡継ぎがいなかった伯父にとって、私が近くに引っ越してきたのは丁度良いタイミングだったのかも」。全くの門外漢だったが、親族からの誘いで何気なく、能を学び始めたという。
しかしその後は厳しい鍛錬の日々を過ごした。「特に礼儀に厳しかった」。流派の拠点である宝生能楽堂(東京都)で講師にあいさつをした時、強く叱られたのが印象に残っているという。「座っていた講師に向かって、私は立ったままだった。『相手が座っているのだから、腰を下ろしなさい』と叱責された」ことも。しかし「基本的なことを叩き込んでもらった。今では感謝している」と振り返る。
大学は能を学ぶため、東京藝術大学の邦楽科に入学。「同級生の演奏会や展覧会に行き、多様な芸術に触れるのが楽しかった」と懐かしむ。絵画や音楽などの芸術と真剣に向き合う同級生たちの姿を見て「違う分野でプロを目指す人の姿と比べて、自分の甘さを実感した」。能を極める覚悟を固めた瞬間だった。
23歳で初のシテ
10代後半から伯父がシテを務める公演でツレ(主役の補佐)などを務めるように。通常、能楽師の家庭に生まれた子どもは6歳頃から稽古を始めて、10代でシテを務める。しかし、12歳から始めた大坪さんは同世代からは少し遅れて、23歳で初めてシテを演じた。「10代は同世代の子たちに追いつくので、精一杯だった。しかしシテを演じるのは入門順なので焦りは無かった」
自身で得意と語るのは女性役。「背丈の大きい人よりも私のような中肉中背が演じた方がバランスが良い」と語り、周囲からの評価も高い。
全国の舞台で能を披露する傍ら、東京藝術大学の非常勤講師を務めるなど、後進の育成に関わる。「先輩から教わった宝生流を若い世代へ伝えていきたい。それが使命だと思っている」と力を込めた。
これらの取り組みが評価され、2022年、人間国宝に認定された。ただ、その後も自身の芸に向かう厳しい姿勢は変わらず一貫している。
月2回は孫と稽古
今後の目標は、14歳の孫が一人前の能楽師になるのを見届けること。孫には6歳から稽古をつけ、2023年には初共演を果たした。現在は月2回ほど横浜にぎわい座(中区)で指導。共に研さんの日々を送っている。「最初はあまり乗り気ではなかったが、最近は真面目に取り組んでくれている」と笑顔で話す。現在は孫がシテ、自身がツレとして同じ舞台に立つことを目標としている。
能楽界全体の課題は高齢化。「自分より上の世代の方々はどんどん引退している。若い人が業界にいないので全体の人数は減る一方」と現状を憂う。そのため、まずは能に興味も持ってくれる若者の鑑賞者を増やすべきだという。「あらすじさえ頭に入れてもらえれば、あとは舞台に没頭するだけ、気軽に見に来て欲しい」と呼びかける。
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