一人一人の個性や社会性を育み、自立した人間として将来を設計する力を養う「キャリア教育」。現代社会の急速な変化、多様化する働き方への対応力などを養う上で、近年その重要性が高まっている。

　川崎市では、文部科学省が示すキャリア教育を市独自の視点で捉え、子どもたちの社会的自立に向けて必要な能力や態度を育てるとともに、共生・協働の精神を培う『キャリア在り方生き方教育』を、2016年度から全ての教育活動を通して実施している。

　川崎市麻生区に拠点を置き、キャリア教育や国際教育を推進しているNPO法人Unlimited（アンリミテッド）は９月、川崎市立白鳥中学校（麻生区）で「職業講話」を行った。同法人が、片平こども文化センターで開かれている川崎市事業「寺子屋しらとり」の実施団体を務めている縁で、瀬尾健一代表理事が学校に提案。同校の２年生がキャリア教育に注力していたことから実施に至った。

多様なキャリアを歩んできたプロが登壇

　当日は９組の社会人が９教室に分かれ、仕事の紹介、やりがい、キャリアなどを講義し、中学生に対して「今だからこそ取り組んでほしいこと」を伝えた。

保育士・大田明日真さん

　同校のＯＢで、多摩区の保育園に勤務。

　「保育士は子どもの未来を守る仕事」とやりがいを述べ、「『好き』と『得意』をたくさん見つけよう」と呼びかけた。生徒は「保護者が安心して子どもを預けられるようサポートする素晴らしい仕事だと思った」と話した。

農業従事者・島田公太さん

　群馬県でトマトやベビーリーフを栽培。農業専門学校で知ったICTを生かし、デジタル技術を活用した農業の活性化に取り組む。

　「好きなことをしていると自分を最大限発揮できる」と語り、生徒は「今、何か目標があるわけではないが、小さなことでも自ら試してみるチャレンジ精神が大切と感じた」と述べた。

ゲームクリエイター・昇大祐さん

　任天堂に勤務後、ゲームのカットシーンを制作する会社を設立。

　「必ず未来への道はある。自分が選んだ道に間違いはなく、正解にしていくことが大事」と述べ、生徒は「好きなことを見つけて、追い求められるようにしていきたい」と話した。

フリーアナウンサー・横町藍さん

　広島県で地元のテレビ局勤務などを経て上京し、ウェザーニュースキャスターとして活躍。現在はフリーアナウンサー。

　「経験は全部無駄じゃない」「自分の武器を見つけて育てて」とアドバイス。生徒は「アナウンサーは場をつなぐ仕事なので、さまざまな知識が必要だと知った」と話した。

美容師・小西光章さん

東京都内のヘアサロンで責任者を務め、自らもカットを手がける。麻生区在住。

「美容師は、お客さまの人生の節目に必ず関われる仕事」と思いを語った。生徒は「どんな仕事も長くやっていくと、やりがいがわかってきて、続けることが重要だと知った。将来どんな職業に就いても、粘り強く諦めずに続けられるようになりたい」と話した。

国際協力師・桑原知広さん

　国際協力機構（JICA）職員として勤務。南スーダンから帰国後、日本国内の民間企業による開発途上国支援の推進に従事。

　「将来を考えるとき、『やりたいこと』『できること』『社会に求められていること』が重なる部分が狙い目」と話し、「まずやってみること」の大切さを語った。生徒は「国によって違いがあるため、何か行動しようと思ったときは日本を基準とせず、その国を基準として考えることが必要だと知った」と述べた。

広告プロデューサー・グスタヴィッチむつみさん

　元ナイキジャパンのセールスマネージャー。企業での経験を生かし、マーケター／プロデューサーとして活動中。麻生区在住。

　「チームの皆の話をよく聞き、チームが心地よく仕事をできるよう察知する能力は必要」と述べ、生徒は「多くの人と協力して仕事するので、人とのつながりを大切にしていることがわかった。学校生活でも生かしていきたい」と語った。

フードコーディネーター・中原麻希さん

　IT企業、和食店に勤務、食品メーカーでは販促などを担当。現在はレシピ作成や動画制作ほか、SNSで気軽でおいしい和食レシピを発信中。

　「好きなことで社会に貢献できるのがやりがい」と話し、生徒からは「細かい料理の裏側や、共感できる学生の頃の話が参考になった」と感想があった。

保険コーディネーター

　明治安田生命のスタッフ。小・中学校、高校などで金融・保険教育などを展開。

　生徒は「お金と関わる仕事だが、人と関わることがとても大切だとわかった」と講義の感想を述べた。

白鳥中学校・千葉葉子校長

　千葉校長は「子どもたちには自分が社会の一員であるという意識を持ってもらいたい。中学生の多感な時期に、自分の生き方をさまざまな視点で考える貴重な機会となった」と述べた。

NPO法人 Unlimited 瀬尾代表理事

　瀬尾代表理事は「こういう自分になりたい、という将来像が少しでも明確になれば日々の姿勢が変わってくる」と語り、「川崎市の『キャリア在り方生き方教育』の特色を理解した上で、今後は他の地域でもキャリア教育を支援していきたい」と話した。