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柿生文化を読む シリーズ「鶴見川流域の中世」中世人の生活の舞台としての鶴見川【4】―1 文:中西望介(戦国史研究会会員・都筑橘樹研究会員)

掲載号:2020年10月2日号

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小田原北条家所領役帳(国立国会図書館デジタルによる)中田藤次郎 渋江(口)三間在家が記されている
小田原北条家所領役帳(国立国会図書館デジタルによる)中田藤次郎 渋江(口)三間在家が記されている

 至徳元(1384)年7月某日、渋口郷は異常な緊張に包まれていた。多数の軍兵が剃髪の武士の下知に従い、城郭を構えて合戦の用意をしているのだ。若い剃髪の武士は江戸(蒲田)四郎入道道儀と名乗っている。

 それは上野国の新田岩松直国に渋口郷を引き渡すために派遣された鎌倉府の役人が、渋口郷へ立ち入る事を阻止するためである。江戸蒲田氏の強硬な抵抗に遭って、鎌倉府の役人は渋口郷への立ち入りができず、新田岩松氏の代官に引き渡すことができなかった。

 事件は武蔵守護代大石憲重によって鎌倉府に報告された。その報告書の写し(守護代大石憲重請文写)が正木文書に遺されている。

 まず、新田岩松直国とはいかなる武士であろうか。直国は上野国新田庄(群馬県太田市・桐生市等)の新田氏の一族であるが、義貞とは別行動をとり足利方に与して活躍している。義貞が滅亡すると新田氏の惣領となり同庄を継承して、鎌倉府に出仕して本領を安堵され、新たに渋口郷等の所領を与えられた。加えて妻は鎌倉府の実力者上杉憲顕の娘であった。

 つぎに、江戸蒲田氏をみることにしよう。守護代大石憲重請文写には江戸蔵人入道希全・同信濃入道道貞・同四郎入道道儀の3人の名前が記されている。希全・道貞は兄弟、道儀は希全の子息とみられる。希全等は家を挙げて鎌倉府の命令を拒否したのである。

 江戸蒲田氏は蒲田郷(東京都大田区蒲田)を本拠とする江戸氏の一族である。江戸氏は武蔵国を代表する有力武士であり、一族を各地に分出した。応永27(1420)年の「武蔵国江戸の惣領之流」という記録には、惣領の流れとして桜田・飯倉・石浜・牛浜・金杉など、庶子には原・蒲田と記しているので、蒲田氏は庶流であることがわかる。蒲田郷には江戸湾に面した深い入り江の蒲田浦という港があり、蒲田氏はここを掌握していたと思われる。
 

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