【11】実際に不利益を受けた方の声 連載 相模原の「司法」を考える 寄稿 多湖翔弁護士
このシリーズコラムでは、相模原の司法の現状と課題について、市にゆかりのある弁護士が解説する。多湖翔氏が担当。
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多くの方が望んでいるにも関わらず、どうして横浜地方裁判所は合議制裁判を導入しないのか。
その1つの理由は、相模原から見た「横浜」が横浜地方裁判所に十分に理解されていないことにあると考えています。どれだけ不利益があるか実感をもって分かって頂けてないのだと思います。
私は複雑かつ困難な訴訟を扱う経験が多いため横浜地方裁判所相模原支部に提訴したものの、合議制裁判とされ同所本庁へ送られるということが過去に幾度もありました。その中の1つの事例をご紹介しましょう。
ある時、相模原市内に居住する60代の男性から生命保険会社との保険金のトラブルの相談を受け、同所相模原支部へ損害賠償請求訴訟を提起しました。その方は「人生にとって大事な問題だから全ての手続きを見届けたい」「裁判に毎回出席したい」という強い希望をお持ちでした。当然地元で審理されると考えていたのですが、相模原の裁判所では手に負えない案件だと、訴訟提起後しばらくして横浜に送られることが決まりました。
私はかなりのショックを受けました。「ご本人が裁判に出席することが難しくなるかもしれない」と思ったからです。予感は的中し、新型コロナウイルスの流行もあり高齢の方にとって長時間の電車移動は余計に難しく、その方は裁判に出席できなくなりました。期日への出席は憲法で保障された裁判を受ける権利の核心です。自分が希望する裁判への出席ができないことが決まった時の、その方の残念な顔が忘れられません。
場所的な遠さが裁判の負担を大きくするというのはこの方特有の問題ではありません。多くの市民の方に自分の生活にとって「横浜」がどれだけ身近な存在か尋ねても、多くの方からは「買い物は町田です。横浜は遠いので行かない。新宿の方がまだ身近かな」「横浜は遠くの観光地というイメージ」という答えが返ってきます。
どうして相模原の方がこれだけ「横浜」と聞いて「遠い」と感じるか、実際の所要時間についてインターネットで調査してみました。横浜線沿線徒歩10分以内の居住地域にお住いの方でも、電車の待ち時間も含めて横浜地方裁判所に行くには1時間から1時間20分程度かかります。また相模原市は面積が広く、鉄道の沿線沿いにお住まいの方は一部で最寄りの鉄道の駅まで自動車やバスで移動するという方が多くいらっしゃいます。国道16号を始め市内の渋滞もかなりのものですから、自動車などで移動する方は余裕を見る必要があります。そうすると片道2時間近くかそれ以上かかるわけです。往復で4時間、社会人には厳しい負担です。
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