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町田版 公開:2016年6月30日 エリアトップへ

宮司の徒然 其の14 町田天満宮 宮司 池田泉

公開:2016年6月30日

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ツマグロヒョウモン

 今年も花壇のスミレ属が若葉を吹き出してきた。スミレたちには申し訳ないが、私はスミレを食草とするツマグロヒョウモンという蝶の飛来を待っている。

 蝶や蛾は幼虫が好む葉やその根元に産卵する。ツマグロヒョウモンのメスはスミレの根元に1つずつ丁寧に産卵する。やがていかにも毒針を持っていると思わせるような幼虫が生まれ、スミレの葉を食べて育つ。黒い胴にオレンジのストライプ。太めの黒い突起が取り敢えず人間を警戒させるには視覚効果絶大。

 ところが幼虫は全くの無毒。触れてみると突起は意外にも柔らかい。親も南方系の毒蝶カバマダラの擬態らしいが、擬態というだけで毒は持たない。ましてや、南方ではモデルのカバマダラは多いが本州ではめったに見られないから、擬態としての効果も無いように思われる。

 温暖化の影響もあるが、関東まで分布するようになった原因は人間による流通が大きい。スミレ属の葉なら園芸種のパンジーにも卵は産みつけられて各所へ輸送される。しかし毒のカバマダラを知らない鳥や虫などがいる地域で生まれたら敵だらけ。ましてや、園芸用のパンジーを食い荒らしたら駆除される運命。さらに南の方で擬態してのんびりしていたせいか、成虫も幼虫も警戒心が少ない。指でつついても丸くなって動かなくなるようなこともめったになく、私の掌の上を歩いて逃げようとする。スミレの葉に近づけてあげると乗り移って行くが、まだ胴が半分私の掌に乗っているのに葉を食べ始めて逃げるのを忘れてしまうようだ。

 成虫も同様に、写真を撮ろうとするとカメラを持つ手や頭にとまったりする。だから、飛来した成虫を見つけて近づくと、すでに野良猫などに飛びつかれたらしく、羽根が破れていることが多い。警戒心の欠如は親から子へと引き継がれてしまっている。

余裕のある生活に

 日本人はぬるま湯に甘んじている民族だと海外から指摘される。確かに国境を他国と接し、常に紛争の脅威にさらされて緊張しながら生活したことがない。戦後70年を迎えていよいよ戦争経験者が少なくなり、世界各国が普通に持っている緊張感や警戒心は欠如している感も否めない。

 ただし、人間が持つスペックには限界があり、もし常に紛争の絶えない状況下に置かれたなら、「細やかなやさしい気遣い」「おもてなしの心」など、世界に誇れる日本の良さは発揮する余裕が失われてしまうに違いない。ぬるま湯の島国と皮肉る以前に、余裕のある生活の意味を知ってほしいものだ。

 国同士の緊張や紛争がなければ、どの民族も生活に余裕が生まれて人間らしい穏やかな心持ちを取り戻せるはず。現実がそんなに簡単でないことは分かっている。今の世界情勢の中における日本国民は平和ボケで警戒心が薄いのかもしれない。しかし自然災害、薬物、貧困家庭など国内には多くの問題があり、平和ボケと言われるほどの幸福な国だとは誰しも思っておらず、紛争のない中で細やかに問題を解決していくことも日本ならではの進む道ではないだろうか。

 子孫のための安全な場所を探している最中に猫に飛びつかれるのは避けたいが、急に警戒心を高めろと言われても難しい。ツマグロヒョウモンは人間以外の生き物にしてはめずらしくメスの色合いが派手だが、この辺りは擬態している毒蝶の生息域ではないのだから、子孫のために少し考えたほうがよろしいのではないか。危険な環境下でさえ蝶もじっくり考える。我々もまだじっくり落ち着いて考えることができるはず。
 

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