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掲載号:2020年11月5日号

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コブナグザ(左)とチジミザサ
コブナグザ(左)とチジミザサ

性 善 説

 性善説とは、人間は基本的に善人だが、放置すると悪になってしまうため、聖人の教えで導かなければならないといった説だ。つまり、悪に染まらないように良い環境で道徳教育を施せば、全ての人間は善人になるとされている。これは高等な生き物ほど欲や遊びという種族を繁栄させるという本能以外のものが芽生え、だからこそ道徳教育が必要になるとも言える。鳥類、爬虫(はちゅう)類、昆虫、植物とさかのぼって行くほどに人間のような欲や遊びはなくなり、種を作り同族を増やすという目的だけに生きている。人間からすれば、それで面白いのかと感じるかもしれないが、欲や遊びを覚えてしまったからこそ感じることであって、もともとそれを持ち合わせない生物は、ひたすらに種を作るために生きることが何よりも幸せなのだと思う(そう考えると、種無しにされた果物は食べやすいがかわいそうな植物だ)。

 庭のチヂミザサが穂をつけた。同類のコブナグサもササのような葉が波打つから、穂を付けるまで区別が難しい。チジミザサの穂はブラシ状で、種は少しの粘性と細かいギザギザがあり、獣(けもの)にくっついて範囲を広げていく。コブナグサはススキの穂に似ているから、種は風で飛ばされるタイプだろう。別名「カリヤス」と呼ばれるが、八丈島の黄八丈の染料となるカリヤスとは別物だ。コブナグサは染料にならない。

 鳥に食べられることを想定して種の殻を硬くし、ふんとともに落とされて発芽するものや、ホウセンカ、カタバミ、スミレのように自分で遠くへ飛ばすタイプ、足元に種を落として動物の足の裏にくっつくものや、ツタで広がっていくタイプなど、植物は多様な手法で生育範囲の拡大を謀っている。そのひたむきさには迷いがなく、同族の繁栄こそが唯一の欲と言えるかもしれない。

 残念ながら性善説は少なくとも哺乳類に限定され、邪念雑念がない虫や植物には当てはまらず、その意味では優れているとも言える。犬や猫もしつけをしないと性格が荒くなってしまうように人間も幼い頃から道徳教育が必要だということだ。世界の国々を見渡せば、犯罪が多く危険な国は教育が行き届いていないことがまずあげられる。そして日本はどうかというと、ウィズコロナで始まったGo Toイートで、トリキ錬金術、地域クーポン券の偽造、飲食店の無断キャンセルによるポイント稼ぎなど、そんなやからが続々現れて政府はあたふた。開き直って「想定内でした」などと発言する始末。そんな悪いやから以前に、それを誘導してしまう誰でも考え付きそうな粗末な企画を発動したのはどなた? みんな高学歴のエリートのはずなのに。まあ、それはともかく、日本の性善説のレベルはこれくらい。まだまだ道徳教育の環境は100点とは言えない。

 庭の狭い通路を通るたびに靴下やズボンにチヂミザサの種がつく秋、途中で気づいてはたき落とすと、まさにチヂミザサはしてやったり。来年はその辺りで子孫が芽吹く。迷惑だが見習う。遊びも欲もなく真っ直ぐに生きるために編み出した技に感心することも必要。利用されて少し悔しいが、獣は毛物、進化して毛の少なくなった今でも、毛に代わって衣服をまとうから種はくっつく。チヂミザサにすれば人間も相変わらず獣の範疇(ちゅう)。
 

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