鎌倉市に寄贈した鎌倉彫の茶托をてがけた 伊志良 逸子さん 長谷在住 75歳
生活に鎌倉彫で彩りを
○…鎌倉彫の職人らで組織する「伝統鎌倉彫事業協同組合」主催の創作展で最優秀を受賞。12月には出品作品の茶托が鎌倉市に寄贈された。四角く切り出した素材に、幾何学的な線を施して仕上げた。「お茶の時間が楽しくなるように、とデザインしたもの。お客様に出して貰って、多くの人が鎌倉彫を身近に感じるきっかけになれば」と優しい表情で語る。
○…東京都出身。実家は着物の染色を扱う工房で、自然と美術工芸に興味を持つように。東京芸術大学では図案計画を専攻した。卒業後は家業の手伝いをしていたが、25歳のときに大学の同級生と結婚。嫁ぎ先である夫の実家は、鎌倉彫の老舗・白日堂だった。店は年中無休で、商品の管理から住み込みの弟子の食事作りまで、目が回るような日々を送った。それでも「忙しかったけれど、実家と雰囲気が似ていたのでとても馴染みやすかったんです」と笑う。
○…鎌倉彫作品の制作を始めたのは50歳を過ぎてから。それまでにもデザインを手掛けていたが、義父の他界をきっかけに「本格的にやってみよう」と決意した。親戚関係にある寸松堂で技術を習得、次第に白日堂にも作品を展示するようになった。伝統鎌倉彫事業協同組合の創作展には10年以上前から毎年出展しており、これまでも県知事賞や漆賞などを受賞した。「やっぱり、評価してもらうことが一番の張り合いになりますね」とほほえむ。芸大での経験を活かし、日本画の顔料をまぜるなどして塗りの色合いにこだわる。「誰も作らないようなものを、と考えて創作するのが楽しい」と目を輝かせる。
○…一人娘は結婚し、現在は内弟子である甥と夫と3人暮らし。日々の楽しみは、仕事の合間をぬって地元のコーラスサークルに参加すること。「童謡や映画の主題歌など、色々な曲を発表会に向けて練習中。歌うとすっきりするの」と朗らかに語った。