鎌倉 コラム
公開日:2026.02.13
鎌倉のとっておき 第190回
鎌倉に息づく武の伝統
鎌倉には名所が数多くありますが、私にとっての「とっておき」は、参拝者の流れから少し離れた鶴岡八幡宮の研修道場です。
合気道を嗜んでいるご縁で、年に二度、奉納演武のために訪れています。境内の奥へ進み、杉木立を抜けるころには、空気がすっと澄み、心が静かに整っていくのを感じます。
研修道場に入ると、自然と背筋が伸びます。道着に着替え、神殿を正面にした道場に足を踏み入れると、ここが武の心を受け継いできた場所であることを実感します。神前に一礼するだけで、身の内に凛とした緊張が満ちていきます。
いざ大太鼓が鳴り、演武が始まると、耳に届くのは呼吸と足さばきの音ばかりです。外の世界が遠のき、技を重ねるほどに心が澄み、静けさが身体の芯へ染み込んできます。この感覚は、何度経験しても不思議なものです。
奉納演武を終えて外へ出ると、参道はいつもの賑わいに戻っています。かつての私は、この光景を鎌倉だと思っていました。しかし、喧騒のすぐそばに、武士の都の気配がいまも確かに息づいています。
観光地としての鎌倉も魅力的ですが、私にとっての鎌倉は、研修道場に漂うあの凛とした静けさです。喧騒の陰にひっそりと宿る"武の静けさ"。それこそが、私の知る「鎌倉のとっておき」です。
中西 雅昭
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