メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの基礎構造を発見した 古市 泰宏さん 寺分在住 80歳
チャレンジ精神で進む
○…新型コロナウイルス感染防止のため接種が続く「mRNAワクチン」。これまでの製造法とはまったく違う、このワクチンの開発につながる重要な構造を46年前に発見した。「みなさんのお役に立つことができてよかった。自分の発見が薬に使われるとは思わなかった」と話す。
○…祖父の代に朝鮮半島にわたり、現在の北朝鮮で生まれた。戦争末期、街の人たちと日本に帰ろうと山の中を歩き続け、1年以上かかってソウルにたどり着いた。そして日本に戻った時には6歳になっていた。帰国後は実家があった富山で暮らす。高校で物理に興味を持ち、大学は稼業の薬局を継ごうと富山大薬学部に進学した。
○…海外論文を読み漁り、未知の知識の楽しさを知った。東京大学で博士号を取得し、国立遺伝学研究所の新設したばかりの分子遺伝部に就職した。研究対象は、DNA上の遺伝情報をもとにタンパク質が作られる際に作用する「mRNA」のメカニズム。当時は世界中の研究者が取り組んでいた。研究の結果、1974年にmRNAの端に特殊な構造があることを発見。科学雑誌ネイチャーなどに論文が掲載され、世界的に注目を浴びた。同時期に米国の研究所に留学し研究を続け、「キャップ」型の特殊な構造が重要な働きをすることを突き止めた。
○…84年に帰国。鎌倉で海外の製薬会社に招かれ研究を続けた。その後も官民プロジェクトへの参加や、研究所の創業など第一線の研究と後進教育に尽力する。現在も現役で来年3月まで予定がびっしり。これからの研究者らに「YMW(やって、みなくちゃ、わからない)。挑戦する心。好奇心を持って突き進めば、そこから思わぬ発見があるよ」と笑顔でエールを送る。