高齢化社会に向けた医療体制やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の合意など、今後、変わっていく医療にどう対応していくのか。本紙では、新春特別企画として、この地域の医療を支える小田原医師会の横田俊一郎会長にインタビューを行い、その考え方や取り組みについて語ってもらった。
――2015年を振り返って医療界にとって、また小田原医師会にとってどんな1年でしたか。
医療界では、超高齢化社会に向けて在宅医療の普及や入院体制の再検討を行い、新たな医療提供の体制づくりに向けて動き出した年でした。
小田原医師会も同様で、2025(平成37)年に向けた地域医療構想の協議会が地域ではじまり、10年後の病院のあるべき姿を模索し、新たな地域包括ケアシステムを作り上げるために、多くの職種の方々との協働作業がはじまりました。
また、一つの大きな出来事として、TPPが合意に達したことがありました。農林水産省が注目を集めたTPP交渉ですが医療界も例外ではなく、外国から最新の医療が入りやすくなるでしょう。規制緩和に伴い、新しくできた薬やこれまで使えなかった薬などが国内に入りやすくなり、早く使える可能性がでてくるといったメリットがあるかもしれません。
一方で、自由競争となり保険会社などが参入してくる分、医療に対する自己負担が大きくなる可能性があります。「お金のある人は良い医療が受けられ、お金のない人は診療を受けられない」といったケースが出てくるかもしれません。お金さえ払えば良い医療が受けられる。命をお金で買うようなことが、ごく普通のことになってしまうのは問題です。日本はアメリカに比べ、格差の少ない国です。営利目的ではなく、困っている人を助けるのが医療の原点と考えているので、日本医師会としては、自由診療は望んでいません。
――小田原社会福祉協議会の跡地に産婦人科が入るという話しがありますね。
良い産婦人科ができ、子どもを産みやすい環境が整うことは、市民にとってよいことだと思います。ただ、産婦人科が増えるだけでなく、産まれたあとの子どもに対する手厚い補助も必要です。
健診に対する補助、5歳児の健診、保育園の受け入れ態勢などは、ほかの地域に比べ、小田原市はまだまだ遅れているのも事実です。安心して出産でき、子育てしやすい環境を整えるには、小田原市のより積極的な取り組みが必要不可欠だと思っています。
――おだわら総合福祉会館の開設からまもなく2年が経ちます。
「やっと使い慣れてきた」というのが本音です。これまでは「会館をどう活用していくか」ということが主でしたが、あれだけの大きな建物なので小田原医師会員の会費だけでの運営は厳しく、この先の医師会機能の継続・維持などに焦点をあて、利活用について検討してきた1年でもありました。会議室を貸し出すことで、地域の人が会館に訪れる機会も増え、まちにも馴染んできたように思えます。そのおかげで、医師会を知ってもらい、身近に感じてもらえているような気がします。ただ駐車場が少なく不便をかけているので、対策を模索中です。
職員をはじめ、携わる人が安心して仕事ができるための基盤をつくり、地域活動の交流の場として使ってもらい、地域の方との交流が多く生まれました。「新しい会館を建ててよかった」と改めて感じました。
――中核市移行に伴い、小田原市と南足柄市の合併が取りざたされていますが、小田原医師会にはどんな影響が考えられますか。
小田原医師会と足柄上医師会の2つの医師会はすでに2市8町、西湘地区を医療圏として、一つと考えています。学術講演会や産業医による相談などは、すでに一緒に行っているのが現状です。万が一、両市が合併となった場合でも、医療環境が大きく変わることはないでしょう。
小田原市立病院、足柄上病院に加え、私立の病院が多くあるこの地域で、2市8町全体で、機能分担を行い、競合しないようにみんなで考えようと話しており、それこそが地域医療構想だと思っています。保険の内容をはじめ、健診や予防接種の助成などに大きな差もなく、医療に関する大きな違いは今もありません。今のところ、医師会として合併するという話もありません。ただ合併となると、さまざまな問題が待っているのかも知れませんね。
――休日夜間急患診療所の利用者は増えていますか。
利用者の数は今も昔もさほど変わっていませんが、高齢化に伴い、内科の利用が多く、医師の勤務体制も時代に合わせて変わっています。しかし、休日夜間急患診療所で対応してくれる医師の高齢化は今後の課題です。もちろん、若い先生も対応してくれていますが、限られた人数ですと偏った編成になってしまっています。新たな先生が休日夜間急患診療所で対応にあたってもらえると、より「急患診療所」が地域に根付いていくと思われます。「急患」の対応は医療の原点ですからね。また、急患診療所で診た患者さんの二次病院の受け入れ先の整備も、今以上に進めていきたいと思っています。
――小田原看護専門学校の新入生の受け入れが今年の4月で最後となりますが、看護師不足に対する対策はありますか。
10人に1人の女性が看護師を目指す時代の中で、准看護師の育成に対する神奈川県からの補助金もなくなり、准看護師を目指す受験者も減少。そんな背景もあり、小田原看護専門学校の新入生の受け入れは2016(平成28)年度をもって終わることになりました。
一方で、看護師免許取得を目指す小田原高等看護学校の受け入れ人数を、今の40人から80人へと2017(平成29)年度から増やす予定です。看護学校を運営する小田原医師会としては、倍に増えた分の生徒を集めるため、学校の周知や、その生徒が国家資格を取得し、この地域で働いてもらうための環境を整えていく必要性があります。将来的には病院だけでなく、学校や幼稚園などに看護師が常駐するといった時代が来るかも知れません。指導にあたる先生も優秀ですし、学びの場もきれいになっています。ぜひ、若い方にはこの地域で学び、小田原で働いてほしいと思っています。