▼5月17日の小田原市長選挙で、4期目を目指した現職・加藤憲一氏との大接戦を制し、新人の元県議・守屋輝彦氏が新市長に選ばれた。投票率は前々回の市長選(前回は無投票)を約5ポイント上回る46・79%。守屋氏を推す政党や市議、経済界らの組織票とともに、新型コロナウイルスにより生活や仕事の基盤が揺らぐ中、危機感を持った多くの市民が1票を投じた結果だろう。
▼立場や状況をわきまえその範囲内で生活するという「分度(ぶんど)」、道徳と経済の一元を説いた「経済なき道徳は戯言(たわごと)であり、道徳なき経済は犯罪である」-。2氏がともに尊敬する人物に挙げた、二宮尊徳の報徳思想にある言葉だ。小田原の未来像へのアプローチとして、加藤氏が「緩やかな人口減少」があっても持続可能な地域社会モデルを掲げたのに対し、守屋氏は「市民に適切なサービスを効率的に提供するには20万人規模の人口維持が不可欠」として企業誘致などの経済成長を訴えた。市の経済政策への不満を表してきた経済界が守屋氏に期待する声は大きく、コロナ禍によって切実さも増している。世界規模の経済危機の中ではあるが、市民を勇気づけるビジョンを示してもらいたい。
▼眼前のコロナへの対応も待ったなしだ。選挙戦で掲げた「財政調整基金40億円」を活用した子育て世帯や生活困窮者、事業者等への市独自の支援策の実施。また市立病院の院内感染収束、地域医療体制の再構築など山積する課題への対応に、助走期間の猶予はない。
▼3万7245票と3万6701票-当落の決着こそついたものの選挙での得票数はほぼ半々。守屋氏は「(加藤氏への)半数の声も市政に生かしていく」と述べている。これから4年間で向き合う課題は「経済成長or市民活動」など二者択一で正解が出せるものではない。尊徳の言葉には、すべてのものが一体として働き結果が出るという「一円融合(いちえんゆうごう)」もある。公民連携を進め、また県、国とのパイプを生かし、まちづくりに突き進むリーダーシップを期待したい。
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