1万個以上の卵の中から、生き残るのはわずか数匹―――。ただ純粋に「生きる」昆虫の命を、緻密な描写で捉えた『つちはんみょう(偕成社)』は、秦野市堀西在住の絵本作家・舘野(たての)鴻(ひろし)さん(47)が手掛けた新作絵本だ。4月発売。
生物学者がひと目で種類を特定できるほど緻密で正確な水彩画で、昆虫たちの姿を描いてきた舘野さん。生存率の低いヒメツチハンミョウを主人公に決めたのは10年前。「『気持ち悪い』と手で払われてしまうような小さな昆虫でも、生き残った奇跡の1匹だということを訴えたい」という思いからだった。
日本のツチハンミョウについては研究論文が少ないため、市内の農家や知人から目撃情報を集め、頭高山や天津神社付近等で自ら調査を行った。自宅では個体を飼育しながら観察。共食いを見たときは衝撃を受けながらも、「個の命より種の命を選ぶ幼虫の潔さを感じた」という。
一生の生活史がつかめてきたのは開始から8年経ったころ。専門家の勧めにより、絵本の製作と並行して観察結果を論文にまとめ、昆虫専門誌「月刊むし」に発表。2・3月号に連続掲載され、2月号の表紙には、絵本『つちはんみょう』の1場面が使われた。
同作では、土の中で生まれた小さな幼虫がハチなどの体にしがみつき、寄生するヒマハナバチの巣を目指す過酷な旅や、多くの仲間が命を落とす中、種の存続のため懸命に生きる幼虫の姿が描かれている。「最初は死んでいく多くの小さな幼虫の姿を描くことで、生きていることが奇跡だと訴えるつもりでした。でも、生き様を見続けるうちに、決死の旅を生き抜いた力強い姿を描きたいと思うようになったんです」
舘野さんは「人の命も、多くの死んだ命の上に存在している。無垢で純粋で潔くて勇敢な虫の姿から、当たり前だと思っている『生きること』の意味を考えてもらいたい」と語った。
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