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秦野 文化

公開日:2023.01.27

インタビュー
第33回丹沢音楽祭の指揮者・三ツ橋敬子さん
2009年 Newsweek Japan誌で「世界が尊敬する日本人100人」に選出

  • 三ツ橋 敬子●東京藝術大学及び同大学院を修了。ウィーン国立音楽大学とキジアーナ音楽院に留学。小澤征爾、小林研一郎、ジェルメッティ、アッツェル、シュナイト、湯浅勇治、松尾葉子、高階正光の各氏に師事。2006年トスカーナ管弦楽団とのツアーを指揮してヨーロッパデビュー。2008年第10回アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールにて優勝。併せて聴衆賞、ペドロッティ協会賞を受賞し、最年少優勝で初の3冠に輝いた。2010年第9回アルトゥーロ・トスカニーニ国際指揮者コンクールにて女性初の受賞者として準優勝。併せて聴衆賞も獲得。これまでに札幌交響楽団、読売日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、オーケストラ・アンサンブル金沢、大阪フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団等と共演している。2021年4月、コロナ禍においてNHK交響楽団デビューを飾り、その堅実な解釈力と手腕に対し各方面より称賛を得た。※写真・資料提供:(株)KAJIMOTO

音楽には人と人をつなぐ力がある

 ――世界的に活躍されているマエストロですが、ここ秦野までお越しいただけることに、心より感謝申し上げます。今回、丹沢音楽祭の指揮をお引受けいただけたきっかけ、想い、お気持ちをお教えください。

 日本中、世界中の様々な場所で、一人でも多くの方にクラシック音楽や生のオーケストラを楽しんでいただける機会を持っていただけたら…というのは私の夢の一つです。今回、秦野の皆さまが大切にされている音楽祭にご一緒できますこととても光栄に思います。

 ――今回の丹沢音楽祭のメイン曲はベートーヴェン「第九」です。日本人になじみの深い「第九」ですが、聴きどころを教えてください。

 この交響曲は、人類に残された宝物のような作品だと思っています。

 まず、第4楽章に交響曲のジャンルに初めて人間の声が用いられたという画期的なアイデア。その歌詞には、個人的な情愛や宗教的な典礼にまつわるものではなく、「全ての人類はみな兄弟になる」というとても壮大なメッセージが込められています。これはベートーヴェン自身が強く願っていたことなのではないか、と私は考えていて、演奏するときは言葉を大切にすることをいつも心がけています。多くの不安や困難が世の中を取り巻いている現代ですが、今だからこそこの歌詞を噛み締めながら「第九」を聴く意味があるかもしれません。

 オーケストラのみで演奏される第1楽章から第3楽章も素晴らしい傑作です。ベートーヴェンの得意とした作曲技法の一つに、モチーフ(小さな音のまとまり。例えば「運命」の♪ジャジャジャジャーンのような)を駆使して楽曲を構成するという方法があります。「第九」の第1楽章、第2楽章はこの技法の集大成と言っても良いくらいですし、また、第3楽章の極上の美しさはベートーヴェンの内面や人間性に触れるような感覚もあってとても魅力的だと思います。

 ――音楽家、指揮者として、日ごろ心がけておられること、今後の抱負を教えてください。

 いつも感謝を忘れず、真摯に音楽と向き合うことでしょうか。コロナ禍が始まった3年前コンサート等の活動が全て制限されて、私自身も150日間指揮台に立つことが出来ませんでした。演奏家の方達は演奏を配信したり、作曲家の方達はこの状況を作品にしたりしているのに、指揮者は一人では何も出来ない。本当に無力だな、と改めて実感したんですね。ですから、作品を産み出し遺してくれた作曲家、一緒に演奏をしてくれる演奏家のみなさんがいらしてこそ、指揮者という仕事は成り立つのだということを大切にしてこれからも活動していきたいですね。

 ――今コロナ禍、紛争など世界をゆるがす情勢が続いていますが、音楽の持つ力について、お聞かせいただけますか。

 音楽には、直接人の命を救ったり争いを止めたりするような力は残念ながらありません。でも、きっと人と人の心をつなぐ力があると私は信じています。中学3年生のとき、音楽家を目指すことになった大きな出来事がありました。正義感の強かった私は、将来は法律の勉強をしたいなと漠然と思っていたのですが、音楽は好きで続けていました。その頃通っていた音楽教室の海外公演のメンバーに選んでいただいて、イスラエルで演奏する機会に恵まれたのですが、その公演が当時の首相故イツハク・ラビン氏の夫人が関わる団体のチャリティー公演だったご縁で、首相官邸での昼食会に招かれました。ランチの後、ラビン氏の選んだ音をテーマにして私がピアノで即興演奏をしたのですが、その演奏を本当に喜んでくださって、奥様とともに温かい拍手と抱擁をしてくださったことが心から嬉しかったです。中学生の拙い英語では伝わりきらなかった気持ちが、音楽を通して通じ合ったような感覚でした。しかし、最後にお会いした4日後、首相は反和平派の凶弾に倒れます。ノーベル平和賞まで受賞した人の命が、たった3発の銃弾で散ってしまう。正義とは?法律とは?と思春期の多感な価値観はガラガラと崩れ、自分は何を一生かけてやるべきなのかと悩みました。その中でラビン氏と夫人と、音楽で心が通じ合ったあの感覚がやはり忘れられず、心をつなぐ音楽を一生の仕事にしたいと決心することになったのです。

 ――最後に当日来館されるお客様へのメッセージをお願いします。

 この日この場所でしか味わえない一期一会の音楽の時間を、皆さまと過ごせますことを楽しみにしています。ベートーヴェンの壮大なメッセージを全身全霊で演奏しますので、どうぞ会場に足をお運び下さい!

 ――ありがとうございました。

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