(上)パプアニューギニアの武具など国内外の仮面や神像を展示する企画展会場(下)岡本が国内外で撮影した写真
1970年の大阪万博のレガシーとして知られる岡本太郎の代表作「太陽の塔」について、文化庁の文化審議会が5月16日、重要文化財への指定を答申した。これに先立ち川崎市岡本太郎美術館(多摩区)で開催中の企画展「岡本太郎と太陽の塔-万国博に賭けたもの」では、「太陽の塔」の足元の地下展示に焦点を当て、民族学的な観点から岡本が「塔」に込めたメッセージをひもといている。
岡本太郎の「太陽の塔」は、55年前に大阪府吹田市で開かれた大阪万博のテーマ館として建設された高さ約70m、基底部の直径約20mの構造物。大阪万博で「テーマ展示プロデューサー」を任された岡本は、工業化・近代化を礼賛する従来の万博に否定的な立場から、「塔」を中心とするテーマ展示を構想した。
岡本太郎美術館では大阪市で開催中の関西万博にあわせ、「太陽の塔」の足元の地下展示に焦点を当てた企画展を開催中だ。2000年に開かれた「太陽の塔からのメッセージ展」では展示できなかった地下展示に焦点をあてている。
なまなましい実感
岡本は地下展示を考えるうえで、「過去-根源の世界」をテーマに据えた。その狙いを自著でこう述べている。「人間が(略)どのような手ごたえで生をたしかめてきたか、そのなまなましい実感をつきつけたい」
イメージを具体化するため、東京大学や京都大学の学生約20人を47の国や地域に派遣し、神像や仮面、生活用具などの民族資料約2600点を収集。それらを「塔」の足元の地下空間に配置し、生活の知恵や神聖なものへの祈りを表現した。
今回の美術館の企画展では、当時の地下展示のイメージを基に国内外の仮面や神像を展示しつつ、パリ時代の民族学との出合いや、国内外の習俗を知るための取材旅行で撮影した写真や論考を展示。「塔」の構想スケッチや制作現場の記録映像なども見られる。日本工業大学(埼玉県宮代町)のプロジェクトチームが7年がかりで制作した、「塔」を追体験できるVR作品「甦(よみがえ)るVR太陽の塔」の上映もある。
担当学芸員の喜多春月さんは「岡本は従来の万国博とは異なるものを目指したが、その背景となったのが民族学との出合い。パリでの学びや国内外でのフィールドワークが、どのように『塔』につながるかをご紹介している」と話す。企画展は7月6日(日)まで。