町田 コラム町田市立博物館より
公開日:2015.08.06
町田市立博物館より【11】
「博物館の雪女」
学芸員 村上智美
町田の博物館には幽霊や妖怪の類はいないのですが、実は雪女が住み着い(憑い)ています。信じられないでしょうが、最後までお読みください。
雪女がその姿を現したのは、つい1年半ほど前の冬のこと。収蔵品の目玉の一つでもある大津絵の展覧会を、大津絵のふるさと大津市にある大津市歴史博物館と一緒に開催した時のことです。ちなみに大津絵とは、江戸時代に大津周辺で描かれた街道の土産物です。神仏や鬼、動物などが擬人化されて描かれ、教訓が添えられているものもあります。
前回ご紹介した美術品専用車で、大津市歴史博物館から借りた作品をお返しにあがるのですが、新幹線なら3時間ほどで到着する距離を、安全に注意しながら、専用車で1日かけて行くわけです。
雪の中をひたすら…
私は筋金入りの雨女で、小・中・高校の移動教室は全て雨でした。卒業アルバムも傘の姿ばかりです。もちろん、今回も…。
輸送当日の東京の天気予報は、数十年ぶりの大雪!急きょ、前日は市外の自宅へは帰らず町田に宿泊、当日は出発時間を予定よりも2時間早めて出発しました。高速道路には速度制限がかかり、雪は止む気配がありません。高速道路の交通情報も、通行止めを示す×印だらけになってきました。到着予定時刻もどんどんと遅くなり、硬いシートに座る皆のお尻も限界を超えていました。
「このまま進み続けて立ち往生しないだろうか…」「輸送会社の倉庫に一時保管し天気の回復を待つか…」という気持ちがよぎります。異常気象が多くなった昨今、お預かりした大切な作品を無事に輸送するためにも、柔軟な対応や早めの決断も大切です。
雪女に格上げ!?
しかし、神仏混淆の大津絵パワーを荷台に積んでいたからでしょうか。奇跡的に私達の進路だけは通行止めにはなりませんでした。予定より数時間遅れたものの、大津絵達は無事に生まれ故郷に帰って行きました。 どこに雪女がいるかですって?おかげ様で、私は博物館の雨女から博物館の雪女へと格上げとなり、博物館へ住み着い(憑い)たのでした。
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