町田 コラム町田市立博物館より
公開日:2016.06.02
町田市立博物館より【19】
道具から『資料』になるまで
学芸員 佐久間かおる
町田市立博物館には、陶磁器やガラス器などのほかに、町田市域で使用されていた生活道具―今は見る機会の少なくなった黒電話、農家で使用されていた唐箕(とうみ=風力で穀物を選別する道具)や足踏み脱穀機など―の収集、調査、保管を行っています。今回は、生活道具が博物館の民俗資料として仲間入りするまでの一場面をご紹介します。
適度にキレイに
博物館では数年前、一般の方とともにすでに収蔵されている民俗資料の整理作業を行いました。民俗資料は使用されなくなってから十数年、さらに博物館に寄贈されて十数年経過しているものもあり、お恥ずかしい話ではありますが、参加された方々からは「うちの倉庫の奥にもあるようなものじゃないか」という表情が読み取れる有様でした。
汚れがひどいものは、まず水洗いをします。整理作業に参加された主婦の方は、いつもの癖でピカピカにしようとされていましたが、民俗資料は洗剤を使い、タワシでゴシゴシと洗うわけではありません。
古い道具には、新調した年月日の墨書(ぼくしょ)や、その道具を使用していた人が何度も同じ場所を触ってできた使用痕(しようこん)が残っている場合もありますので、それらを消さないように慎重に洗うよう、キレイ好きの主婦には納得しがたい洗い方をお願いしました。
歴史を語る
これまでに付着した埃(ほこり)や虫の死骸などを取り除き、身だしなみを整えた道具類は計測のほか、壊れた箇所や使用痕のチェックなど、さながら健康診断のような調査を行い、ようやく博物館の民俗資料として仲間入りを果たします。
汚れを落とし、あらゆる角度から資料を見る事によって、普段道具として使っている時には気付かなかった面も見えてきます。作業当初、「倉庫の奥にあるようなもの」と思っていらした方も、「道具」から『資料』にレベルアップした民俗資料の歴史的価値を再認識した表情に変わったように見えました。
人々の汗と思い出が染み込んだ民俗資料は、展示室に登場する機会こそ少ないですが、町田市の歴史を語る語り部として、来たる出番に備えて博物館で待機しています。
※7月9日(土)から「インドネシア ファッション〜海のシルクロードで花開いた民族服飾の世界〜」展開催
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