町田版 掲載号:2017年10月26日号
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町田万葉散歩【4】 「小野路の雑木林」沢野ひとし

 小野神社から奈良ばい谷戸に掛けての風景は、里山の魅力が残っており、秋の一日の散歩コースにぴったりである。ケヤキは季節の中で沈黙するかのごとく、ひっそりと生き続けている。

 小学二年生のときに家の庭に小ぶりのケヤキの木があった。初夏に高い上の枝に花が咲いているのを発見して一人喜んでいた。やがて秋になり固そうな実を付け始めた。二階の窓から降りて屋根伝いにその実を取りに行き、手を伸ばしてつかんだ瞬間に、身体は宙に舞った。そして地面にたたきつけられた。大きな岩にぶつかり声を上げ泣き叫び眉間から血を流しそのまま気絶してしまった。

 たまたま近くにいた父親は顔面から血を流しているわが子を見て「このいたずら小僧」と言い、すぐさま背中にしょって三十分も走るように病院に向かった。

 まずは麻酔の注射をして目の下と鼻の頭を縫い合わせ「命があってよかった」と医者は言った。顔中に包帯が巻かれ、血に染まった目で辺りを見れるようになったのは二日後であった。抜糸まで顔は腫れ上がり、包帯が巻かれ、家の者に「お化けみたいで怖い」と避けられていた。

 あれから六十数年経つが、ケヤキの木を見るたびに今も鼻筋にくっきり傷跡が残っていることに苦笑する。



 早(はや)来ても見てましものを

 山背(やましろ)の高(たか)の槻群(つきむら)

 散りにけるかも

      高市連(たけちのむらじ)黒人(くろひと)



 歌意は「もっと早く来て見ればよかったのに、山城の多賀の槻の木立の葉はもう全部散ってしまったのかな」。「槻」はケヤキの古名。

 黒人は旅情を詠んだ歌の多い歌人として有名。旅路でケヤキの紅葉の美しさを逃した無念さと重ね、この木への想いが伝わってくる。

 多摩丘陵には日本の原風景とも言うべき里山がまだ残っている。しっとりとした風情をこの雑木林がしっかりと守っている。

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