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町田 コラム

公開日:2018.01.25

町田万葉散歩【7】
「雪の薬師池公園」沢野ひとし

 町田市を代表する憩いの公園が薬師池公園である。新東京百景にも選ばれ、手入れが行き届き、いつ行っても四季折々の植物が迎えてくれる。公園の雑木林の坂を登って行くと野津田薬師堂といわれる福王寺薬師堂がある。薬師池は野津田薬師のほとりの池を指す。



 我が家から20分ほど歩いて薬師池公園に行ける。七国山周辺を散歩して、園内のやくし茶屋でおやつを食べるのが私たち夫婦の定番になっている。妻は焼おにぎりか、あん蜜を注文する。私は頑なにだんごで何十年も守り通している。薬師だんごは人気が高く、午後には売り切れてしまう。月に2回は散歩するので、あれから40年いったい今までにこのだんごをいくつ食べてきたのだろうか。



 数年前の1月中旬に夕方から深夜、そして朝方まで雪が降っていた。そっと布団から抜け出し、一人でカメラを首から下げて薬師池公園に行った。開園の早朝6時にはまったく人影がなく、池にかかる太鼓橋にも雪が降り積もっていた。最も詩情を誘うのが雪の公園の風景である。しばらくすると雪がぴたりと止み、辺りが明るくなってきた。







 淡雪(あわゆき)の ほどろほどろに 降り敷けば 奈良の都し



 思ほゆるかも



大伴旅人



(巻八―一六三九)







 泡のような雪が「ほどろほどろ」に降り続くと奈良の都が思い出される。ほどろほどろとは「はらはら」と舞う雪の様子。







 市内のバーで酒飲み仲間と万葉集の話をしたことがある。グラスに細かく砕いた氷を入れウイスキーをたらしながら友は「今夜もほどろほどろにいきますか」とつぶやいた。万葉集の中に「夜のほどろ」という言葉がある。ここでは「夜明け方」を意味する。泡のようにはらりはらりと酔うのか、それとも午前様まで酩酊してつぶれていくのか。



 大酒飲みの命は短い。雪景色を見ていると亡くなった友のことをしきりに思い出していた。

 

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