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町田 コラム

公開日:2018.03.29

町田万葉散歩【9】
「尾根緑道の桜」沢野ひとし

 満開の桜を見るといつも胸が詰まる。すべての花が開き、微笑んでいるのに、自分一人が取り残されたような悲しみが残る。



 小学生の時から勉強ができないボンクラな生徒だった私は進級、進学の桜の時期は不安や焦燥にかられていた。



 桜の花を落ち着いて眺められるようになったのは四十代に入った頃からである。若い頃は出会いに溢れ、花見の宴で遊び仲間と酔っていた。やがて歳を経てくるとしだいに友とも会わなくなり、永遠の別れが多くなる。不意に「桜の頃に彼は亡くなったのか」と月日の流れの早さに落胆する。



 多摩丘陵から相模原台地に続く「尾根緑道」は桜の名所として名高い。十種類を超す桜が植えられているので、開花期が少しずつ異なり長く楽しめる。小高い尾根道のために、展望も素晴らしく眼下に相模平野、丹沢山塊、富士山、奥多摩と屏風を開いたように見える。



 この道は元々「戦車道路」と呼ばれていた。旧陸軍が戦車の走行や操縦訓練を実施するための走行テストコースであった。本来は総延長三〇キロの計画であったが、開通したのはこの八キロの小道であった。現在は町田市が整備して市民の遊歩道として利用されている。この道は多摩の戦争道跡としていつまでも記憶に止めたい。



 十代の頃から山登りを道楽にしてきたので、山の中でポツネンと咲いている山桜に引かれる。







 山峡(やまがひ)に 咲ける桜を



 ただ人目(ひとめ) 君に見せてば



 何を思はむ



大伴池主(いけぬし)



(巻一七―三九六七)







 「花に嵐」のたとえのごとく、満開の後、雨に打たれた花は痛ましくはかない。それだけに毎年桜に想いを込めたい。

 

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