町田 コラム
公開日:2021.11.04
町田天満宮 宮司 池田泉
宮司の徒然 其の91
ススキ
今年も野津田の芒山(すすきやま)は秋風に揺れる。夕日に輝く穂が美しい。しばし座り込んで眺めていれば風の形が見える。秋も深まれば定期的に丸坊主に刈られてしまうが、ススキの根は強くて春には勢いよく新芽が吹き出してくる。冬前に刈らないと他の木の芽が進出して、放置したススキ野原は森林へと変わっていくという。昔は茅葺き屋根の材料や牛の飼料として利用価値が高く、枯れ尾花になると刈り取って、ススキ野原を保存していたが、今は利用先がなくなって公園で観られるくらいになっている。我々の世代では、ススキ野原を早足で歩く木枯し紋次郎や、乳母車を押す子連れ狼の寒々としたシーンが浮かんだりする。お月見の飾りとしてメジャーだが、温暖化が進むと飛びやすい綿毛だらけの枯れ尾花しか飾れなくなるかもしれない。
ススキ野原を利用していたのは人間だけではない。カヤネズミは住処として、鳥は外敵から隠れたり塒(ねぐら)にするコロニーとして。またナンバンギセルはススキの根に寄生する。人間の生活形態が変わることにより、様々な動植物にも影響が出てくる。
当社境内にもススキを増やしている。6月末と12月大晦日の茅の輪に利用するためだ。茅の輪神事が全国で流行り始めたのは10年前くらいからだろうか。そして茅の輪くぐりの起源は京都の祇園社(八坂神社)で、素戔嗚尊(すさのおのみこと)にあやかって疫病除けの神事だった。その後半年分の罪や穢れ(けがれ)をリセットする神事へと変わってきたが、奇しくもコロナウイルスが大暴れして、茅の輪くぐりは本来の疫病除け神事の特色を取り戻しつつある。
ススキ山もそろそろ丸坊主。前倒しで衆議院も解散リセット丸坊主。違うところは青々した瑞々しい新芽が吹き出してくるかどうか疑わしいこと。何も変わらず、依然として枯れ尾花が秋風に揺れるのでは困る。
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