町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の94
不可解
当社社殿と旧社殿はコンクリート製の透塀(すきべい)に囲まれている。その内側に数年前からじわじわと広がってきているのはヒメツルソバ。園芸用として持ち込まれて野生化した植物で、匍匐性(ほふくせい)だから特に邪魔というわけでもなく放置していたら、毎年秋に金平糖のような花を並べるから、踏んづけて歩くには忍びない。つまり花を避けるから歩きづらい。元々は犬か猫の足に種がくっついて運び込まれたのではないかと思われるが、このコロナ禍で人出が少ないのを良いことに、境内の真ん中でも新芽を見かけるようになった。種による繁殖率は高いらしく、透塀の内側に立ち入るのは我々だけだから、種を境内に運んだのは私の草履の裏である可能性が高い。ヒメツルソバはヒマラヤ原産だけに夏の暑さは苦手なようで花も咲かせない。ところが冬に霜が降りると葉は枯れて根だけで耐えるが、霜柱が立つほどになると根も死んでしまう。本当にヒマラヤ原産なのか? 不可解なやつだ。ただし種の発芽率が高いから春にはまた勢力を広げる。地を這ってばかりかと思ったら、写真のように塀の土台を乗り越えていて、蔓が地面に接触すればそこから根を出す。繁殖力は旺盛だが寒さに弱いのは幸いだ。これで冬も枯れなかったら、あっという間に地面が覆いつくされてしまう。かわいい花が咲くからさらに歩くのに苦労することになり、そして人間本位で横暴な駆除という結末になりかねない。植物にとって一番の誤算は人間の存在だ。さて、花や葉がソバに似ているから付けられた和名だが、不思議なくらい虫に食われていない。あの苦いタデでさえ食われるというのに、虫よけ用に植えられるハーブ類も食われるというのに。ヒメツルソバは怪しい毒素を隠し持っているのか、または日本の虫がヒマラヤの草に馴染めていないのかもしれない。若い頃は葉をかじってみたりもしたが、60を過ぎて胃腸に自信がなくなっているからやりたくない。不可解なままにしておこう。花は小さくともかわいいし、このまま日本に馴染んでも問題はない。
最近、不可解な事件が目立つ。逆恨みでアニメ制作会社にガソリンを撒いて多数の死者を出した事件。死刑になりたいという理由で繁華街に車で突っ込んだり、道行く人や電車内に乗り合わせた人を襲う事件。恋人になってくれないからと、その家族を傷つけたあげくに放火した片思い男。事前に包丁をネットで購入して友達を刺した中学生。殊に電車内の事件は模倣犯まで現れている。社会全体に心の闇の部分が蔓を伸ばし根をはっているように感じられて恐ろしい。準備周到に隠し持っているナイフや燃料、そして何よりも理解に苦しむ心の闇。日本社会は新しいタイプの不可解な犯罪に馴染んではいけない。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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宮司の徒然 其の135町田天満宮 宮司 池田泉11月30日 |