町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の108
安住の地
今年も当社の故実による梅「思いのまま」は春を待ちきれずに咲き誇り、採りきれないほどの丸い果実をたわわにつけた。それでも幹には大きなうろができて、ムクドリが営巣している。卵がかえると微かにヒナの声が聴こえる。緑の絨毯のようなマゴケとウグイス色の塗料のようなウメノキゴケを纏い、ついにノキシノブも2本根付いた。樹勢がなくなりひこばえも少なくなった。ひこばえとは主に大木の根本付近から出る新芽を示すが、梅の場合は根本や幹、枝先近くからも薔薇でいうところのシュートを伸ばす。伸び盛りの若い梅の木は毎年ひこばえが天を目指すかのように真っ直ぐ吹き出す。秋にそれを剪定せずに放置すると翌年には花をつけるようになり、つまりその長さだけ全体に大きくなって野木になっていく。野木になった梅は枝ぶりが広く大きくなり、花も密集しなくなってしまう。当然花見に向かず果実の採取も厄介になる。昔から「桜切る馬鹿梅切らぬ馬鹿」という言葉があるように、桜は枝を切ると病気になりがちで樹勢が落ちるのに対して、梅は枝を切っても病気にならず、はねかえすかのようにひこばえを吹き出す強さがある。放置して野木になれば風で枝はぶつかり合いこすり合い、結局どちらかが枯れてしまうから、上手に切ってあげることが梅にとっても人にとってもウィンウィンなのだろう。
そんな関係でかれこれ半世紀付き合ってきた思いのままも老木になり、収穫や剪定では幹に登って作業すると、足をかけるのに不安な枝も多くなった。先月の収穫時、幹の途中に腰掛けて弱った幹に張り付く地衣類のマゴケとウメノキゴケ、シダ類のノキシノブを眺めて、人間が壊しつつあるくたびれた地球の上で、なおもせめぎ合っている国々が、なんだか似てるなと感じた。ロシアのターゲットが仮に日本だったなら、我が国の戦力では1週間もてばいいくらいらしい。同盟国が軍事支援すれば、小さな日本全体が戦地になって、まるでかつてのベトナム、今のウクライナ。大国や連合国同士が軍備を競う土俵で、命を守るため右往左往する国民。
そんなことをしている間に、かつて安住の地だった幹は朽ちていく。地衣類やシダ類は胞子を飛ばして移住し子孫を残せるが、人類が移住できる星はまだ見つかっていない。そのあたりをかの大国のリーダーは、わかっていても自国最優先で領地拡大にこだわっている。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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宮司の徒然 其の135町田天満宮 宮司 池田泉11月30日 |