町田 コラム
公開日:2023.05.18
町田天満宮 宮司 池田泉
宮司の徒然 其の124
集まらずに守る
秋、ミズキが実を落とし、葉がいよいよ衰えていく頃、その虫は秋風に揺れる葉裏にしがみついていた。アカスジキンカメムシ=写真=というカメムシだが、赤い筋など見当たらない。というのも、この特撮戦隊シリーズのマスクを連想させるコミカルな模様は、このカメムシの終齢幼虫の時期だけのもので、成虫まで達しないうちに越冬をする。枯れつつある食草のミズキを最後の晩餐としてからか、やがて仲間同士集まってひしめきあうようにして春を待つ。この終齢期の模様は白以外の部分は玉虫色に光り、成長する過程で一番目立つ。おそらく越冬する準備として集合するのに、互いを視認するのに必要な色合いなのだろう。越冬後は全体に鈍い緑色になり、赤系のスジ模様が入って成虫に、つまり大人になる。
人も同様に概ね住みやすい場所に集まって暮らす。ぽつんと一軒家というのもあるが、それはそれで不自由で寂しくて不安なものだし、他の人と完全につながりを持たずに孤立している人は滅多にいない。ところが、世間をいや世界に警戒感をもたらしている新型コロナウイルスが日本国内でじわじわ感染者を増やしてきた中で、新天皇陛下初の天皇誕生日一般参賀や、東京マラソンの一般参加も中止されるなど、多くの人が集まることがリスクになってきた。どこまで増えたら我々にも行政から行動の制約が下りてくるのか、皆予測できなかった。人はコミュニケーションによって互いを知り人間関係を構築してきた。島国日本は概ね互いに気を使い巧みに協力し、角が立たないように、つまり暮らしやすい空気感を共有する努力をしてきた。吹雪にさらされるペンギンの群れは、時に数百羽がおしくらまんじゅう状態になって、内側のヒナなど弱い仲間を強い大人が取り囲んで守るのに、日本はこの3年間、大勢で集まることが互いを守れないことにつながっていた。日本の正念場なのに、かつては海外から対策がぬるいと批判されていたが、今は海外が緩め放題。責任を取りたくない政府が手探りで対策を呼びかけたから、国民がますます不安に陥る悪循環。命令できないのが民主主義なのか、経済破綻の可能性に怯えて口ごもっていたのか、終息という希望的観測が悪い可能性を包み込んでしまっていたのか、これは私の憶測だが、国民の憶測でもあった。不信感。こんな思いで国民の気持ちが一つになるのは良いわけがない。
おしくらまんじゅうする終齢幼虫のアカスジキンカメムシは、春になれば各々が旅立ち色合いを変えて大人になる。さて日本は互いを守って大人になれたのか。旗振りが控えめで人任せだったからこそ、個人、世代、業種による対策のギャップが生まれ、それは緩め始めた今もあって、完全に終息しても苦い記憶として残る。
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