町田 コラム
公開日:2023.06.01
町田天満宮 宮司 池田泉
宮司の徒然 其の126
金と銀
今年の春、4月にしては暑すぎる日に近所の森をうろうろした。昨年の手帳に記してあった同じ日に、金蘭と銀蘭が咲いているのを見つけた。しかも、銀欄は数本増えていた。去年からも温暖化は着実に進んでいるからこそ、いつもの場所でいつもの時期に鑑賞できる草木は有難いと思う。
人は黄色や白を金と銀と呼ぶ例が多い。金木犀と銀木犀、キンミズヒキ、ギンミズヒキ、小麦の畑を金色や黄金色と呼んだり、花見の折り詰めの玉子焼きとかまぼこも金銀に見立てたり。いずれも黄色と白と呼ぶよりも金銀の方が神々しいとか、めでたいという意味が込められているのだろう。
銀蘭は、大きくて目立つ金蘭に対して名付けられたらしい。確かに背丈は10〜15センチくらいで花も小粒。地味だが控えめでいて根は深く、逞しいから日本的で好きだ。金蘭は目立つのも災いしてか、マニアによって数が激減して絶滅危惧種になり、自然公園では生育している区域を立ち入り禁止にして保護しているところもある。エビネランやカタクリも、自然に生えているのを久しく見ていない。勿論森林伐採や開発の歴史もあり、ひっそりと地道に生きていた草木の生態系に過激なダメージを与えるのは、やはり人間だ。
スーダンの避難民は数百万人にも及ぶという。ウクライナを追われたウクライナ国民、ロシアから脱出するロシア国民。紛争のとばっちりはいつも、ひっそりと目立たず地道に生きてきた人々に降りかかる。そして戦争は癒えない傷と永い遺恨を遺す。同じ人間同士で過激なダメージを与え合う愚かな歴史をいつまで作り続けるのだろう。
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