町田 コラム
公開日:2023.07.20
町田天満宮 宮司 池田泉
宮司の徒然 其の128
昼 顔
私の世代以上であれば、昼顔で連想するのはカトリーヌドヌーブの映画であって、上戸彩のドラマではない。もっとも、私の幼少期の映画だからちゃんと観たことはない。
道端のフェンスに絡む昼顔は、咲いてる時間帯は朝顔とさして違いもないのに、朝顔との対比で名付けられたらしい。ところが、朝顔と昼顔には大きな違いがある。朝顔は毒があるが、昼顔は花も葉も蔓も根も食べられる。おひたしにしたり天ぷらにしたり、何でもいける。では何故メジャーになっていないかというと、癖が少なくさっぱりしているからか、また食べたいと思わせるほどの味ではないからか。いや何よりも、収穫量の効率の悪さが大きいのだろう。キャベツや大根、カボチャなどのメジャーな野菜は栽培の苦労に報いるだけの大きさと、美味しいからこそ収穫に値する条件が整うわけだ。「一般的な野菜」という括りは、あくまでも人間本位の呼び名だから、植物としてはその仲間に加わらないほうが幸せなのかもしれない。
植物は大きく3つに分けられる。長日性、短日性、中日性。夏至に向かい日照時間が長くなっていくと花をつけるのが長日性で、冬至に向かい日照時間が短くなっていくと咲くのが短日性だ。中日性は日照時間に影響されない。文字の表現とは逆に、実は夜の長さが花に影響している。もちろん、これに気温や雨も絡んでのことだから、温暖化や大雨も植物が営んできたリズムを狂わせる要因にもなる。人間も同様に夜の長さが肉体と精神のリズムに影響するという。昼に活動して夜は眠るという原始の生活から火を扱うようになり、やがて電気が登場し、昼夜の長さの変化に応じた生活は一年中同じになった。さらに作物に対しても昼夜の時間を人為的に調整して、収穫時期を変えたりもしている。
昼仕事で疲れた後の夜の会議は、意外なアイデアが生まれたりする一方、昼は冷静で浮かばなかったよろしくない策略も生まれるらしい。だから暗躍というのか。暗い時間の長短で花を咲かせる植物たちは、悪だくみをすることなく季節を察知して花を咲かせ、人に季節を教えてくれる。それは人類が生まれる前から変わらない。人間だけが変わってしまった。地球環境対策にようやく取り組み始めた今、植物に生かされてきた恩に感謝し、これからも共存していく手だてを模索していく時期なのだろう。
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