「こんにちは、お身体の調子はどうですか?」――。開演が近付き、パラパラと集まり始めた「聴衆」一人一人に声を掛ける姿が印象的だ。この日のステージは有料老人ホーム「レストヴィラ座間」。聴衆は約20人の入居者だ。ボランティアとして演奏を始めて4年、入居者ともすっかり顔なじみだ。
「とにかく世の中の役に立ちたい」、そんな思いから始めたボランティア。曲目はその日の会場の雰囲気で変えている。レストヴィラ座間に来たときは、決まって「アメイジング・グレイス」を最後に持ってくる。この曲が好きだという入居者の女性がいるためだ。
黄金時代の魂今も変わらず
遡ること60余年、終戦後に進駐軍のラジオから流れてきたジャズを耳にしたその日、音楽の魅力に取り憑かれた。ウィントン・マルサリスのレコードを擦り切れるほど聴き続け、スキャットを必死で真似た。
成人し、東京で夢を叶えた。プロトランペッターとして、時代を象徴する歌手たちとともに「日劇」のスポットライトを浴びたのだ。時は1960年代。カラーテレビがお茶の間に登場し、日本の総人口が1億を突破した輝かしい時代だった。明るい未来に向かって日本が全力疾走するのを、ステージの上から肌で感じていた。
だが、70年代に入ると少しずつ状況が変わった。カラオケの登場で生演奏が減り、音楽一本で食べていくことが難しくなった。40代で会社勤めを始め、第一線を退いた。
プロ時代には演奏することのなかった唱歌や歌謡曲も、今ではレパートリーに入れている。歌うことが好きな入居者が多いためだ。
開演から1時間、MCと演奏で休みなく動き続けるため、この時期は全身汗だくになる。「役に立ちたいとの思いで始めたが、今は自分が楽しんで活動している。身体が続くかぎりは演奏を続けたい」。会場や曲が変われど、かける情熱が変わることはない。
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