日本基督教団鎌倉教会の牧師で作曲家 遠藤 亮さん 雪ノ下在住 88歳
「聖霊の声、五線譜に」
○…聖書の「詩編129・130」に題をとり、自ら作曲した合唱曲が先月、日本基督教団鎌倉教会(由比ガ浜)の会堂で聖歌隊によって演奏された。難曲のため披露される機会がなく、完成から約20年の時を経ての初演。「素晴らしい演奏で素直に感動しました。作ったものが誰かの耳に届くことは作曲家にとってこの上ない喜び」と穏やかな表情を見せる。
○…その人生は波乱に満ちている。出身は新潟県。裕福な家庭に生まれたが、5歳で父を亡くし、15歳で終戦を迎えると今度は農地改革により資産の多くを失った。「生きていくために何をするか考えた時、作曲家か牧師か小説家になろうと決意しました」と当時を振り返る。上京し「一番現実的な道だった」と大学で作曲を学んだ。卒業後は音楽教師となり、新潟や神奈川県内の中学校、音楽大学でも教鞭をとりながら、現代音楽作曲家の松平頼則さんに師事し作曲を続けた。
○…1975年にパリで開かれたISCM(国際現代音楽協会)主催の「国際音楽祭」で応募作品が入賞。しかしキャリアのハイライトで、人生の転機を迎える。会場に近いノートルダム大聖堂を訪れた時のこと。「聖堂には私しかいないなか、聖歌が歌われていて、その純粋な美しさに心を打たれました。彼らは神様のためだけに歌っているのだと思うと、世俗での評価を追い求めることの虚しさ、何より自分の才能の限界を感じました」という。これを機に若き日に思い描いた「もう一つの道」を模索する。91年に鎌倉教会で洗礼を受けると、70歳を過ぎて神学校に通いの牧師となった。
○…「私はただ待っていて、聖霊が運んで来たものを五線譜に写しているだけ」と、その創作を独特な表現で語る。現在は弦楽四重奏を作曲中。「第1楽章に1年かかったので、残り3楽章を3年かけて作れたら」と笑う。聖霊の声に耳を傾けながら、音楽と信仰に向き合う営みが続く。