学芸員のイチ推し! -連載 Vol.30-歌川広重(初代)「五十三次名所図会 藤澤 南期の松原 左り不二」
歌川広重は、江戸時代後期の浮世絵師として、特に風景画に優れた才能を発揮しました。その代表作の一つである「東海道五十三次」の中でも、本作は広重独自の視点で富士山を捉えた一枚です。
本作の特徴は、現在の千ノ川に架かる鳥井戸橋付近から見た富士山を、画面左側に配した構図にあります。一般に、東海道からの富士の眺めは正面や右側に配置されることが多いですが、広重はあえて左側に描き、遠近感を強調しました。これにより、画面全体に広がりが生まれ、旅の途中でふと振り返った時のような自然な視点が感じられます。
手前には松並木が続き、旅人や馬が往来する様子が描かれ、東海道の賑わいを表すとともに、遠くにそびえる富士山との対比を生み出し、より一層その雄大さを引き立てています。また、広重ならではの淡い藍色や緑の色彩表現が穏やかな空気感を醸し出し、観るものに旅情を誘います。
広重の風景画は、単なる名所の記録ではなく、自然と人々の営みを巧みに融合させた点が魅力です。本作も、旅人が見たであろう風景の一瞬を、詩情豊かに描き出しています。
この浮世絵は、現在、博物館でご覧いただけます。
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