高校球児にとって夢の舞台「甲子園」。その憧れの舞台への挑戦権を今一度手にしようと立ち上がった男たちがいる。
逗子高校野球部OBのメンバーらだ。「マスターズ甲子園」はかつての高校球児たちが世代を超えて聖地、甲子園を目指す大会。今年5回目の開催を数える同大会に今年初めて出場を決めた。きっかけは同校OB会で現役選手の応援をする傍ら「自分たちもかつては甲子園を目指した仲間。機会があるならもう一度、このメンバーで目指したい」と話が持ち上がったこと。もう何世代も現役選手が戦う姿を見送ってきた。しかしその裏で燻っていたのは時が経っても色あせない甲子園への想いだった。その熱は次第に広がり、一人また一人とメンバーが集まっていった。
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出場校には横浜高校、東海大相模高校、武相高校など歴戦の強豪校が名を連ねる。神奈川県からの出場は23チーム。7つに分かれる予選ブロックで戦い、敗者復活戦を経て8チームがトーナメントで競う。同じブロックには神奈川県予選で上位常連校として知られる桐蔭学園がいる。それでもメンバーに気後れはない。「逗子高校の名を背負って出場するからには本気でやる」。発起人の一人でOB会長の大和純さん(43)は語気を強める。「集中」の文字が書かれた現役時代に愛用したグローブ。今もその横顔は甲子園を目指した球児だったあの頃と変わらない。
「公立校が甲子園なんて夢のまた夢と思われるかもしれない。でも全ての球児が甲子園を目指せるのが高校野球の良さ。それを大人になってもう一度目指せるなんて素敵じゃないですか」
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バァーン―。話の合間、マウンドから放たれたボールが勢い良くミットに収まる音が球場に響く。メンバーは18歳から43歳までの43人。現役を退いてまだ間もないメンバーもいれば野球から長らく遠ざかっていたメンバーもいる。森慎一郎さん(37)はマスターズ出場の知らせがなければボールを握るつもりはなかった。しかし「勝手知った仲間がもう一度やるというなら乗らないわけにはいかない」と数年ぶりにユニフォームに袖を通した。なまった体はまだ思うように動かない。それでも「昔までとはいかないまでも大会までには動けるようにしたい」と気概は十分だ。
練習がひと段落し、集合の号令に集まるメンバーたち。「観るのもいいけど、やっぱり野球はこうじゃないと」。ユニフォームを土で汚した選手のひとりが白い歯をのぞかせる。
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マスターズには前半4イニングが34歳以下、後半が35歳以上が出場する特有のルールがあるため若手だけでなく、ベテラン勢の仕上がりが勝敗の鍵になる。練習は月1度。貴重な時間にメンバー一同が真剣な表情で高校時代と同じ練習メニューに汗を流す。
チームキャプテンを務める吉川征通さんは戦いを前に「初出場だから相手に胸を借りる気持ちで」と控えめだが、その一方で「まずは1勝を勝ち取りたい」と闘志を滲ませる。吉川さんにとって桐蔭は現役時代に公式戦で敗れたことがある相手。雪辱を果たしたいという想いもある。
今年、優勝チームは関東大会に進み、本大会へは選抜チームで臨む。今回はあくまで序章。4月に開幕戦を控え、夢舞台への挑戦が再びスタートする。
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