県立横浜旭陵高校＝上白根町＝の吹奏楽部は、来年３月の定期演奏会に向けて練習を続けている。演奏会は４人の現役生と、現役生に加え、卒業生や地域の人々が参加して結成した楽団・｢絆の仲間吹奏楽団」による合同演奏会だ。

演奏機会の創出

　「絆の仲間吹奏楽団」は、部員数が少ない吹奏楽部の現役生のため、同部の前顧問の角田義彦さんが立ち上げた。

　和歌山県出身の角田さんは、自身が高校時代に吹奏楽部の強豪校に所属しながら、挫折した経験を持つ。12年前に教員になった時、吹奏楽部の顧問を引き受けるなら「生徒が苦しくても３年間続けられるように」との想いをもって指導に当たっていた。

　角田さんは、２０１６年４月に旭陵高に着任。同校は元々部活動に参加する生徒が少なく、当時の吹奏楽部は４人。前任の顧問の方針からコンクールなどに出場しないなど、人前での演奏機会は、文化祭や年度末の定期演奏会などに限られていた。角田さんは現役部員に「大規模な演奏を経験させてあげたい」と、生徒たちに外部を巻き込んで、演奏機会を作る事を提案。同校と同じく部員不足に悩む旭高校＝下川井町＝、横浜明朋高＝港南区＝に声を掛け、18年３月に定期演奏会を兼ねたジョイントコンサートを実現させた。翌年には、さらに違う学校やＯＢ、地域へ参加を呼びかけ、40人近い「楽団」での演奏となった。

　しかし、コロナ禍で何もかもがストップ。施設の使用はもちろん、部活動は、勧誘も活動も中止に。さらに角田さんが、21年３月で同校からの離任が決まった。

　角田さんは、同校の現役生と楽団メンバーとの絆を途絶えさせないため、｢絆の仲間吹奏楽団｣の結成を正式に決定。同校や新しい顧問の藤城祈さんの了解を得、定期演奏会に向け、指導を続けている。

拡がる協力の輪

　「絆の楽団」は、現役生と卒業生、そして「同部の関係者と深い絆で結ばれ、現役部員の活動を全面的にサポートできる者」で構成される。角田さんが旭陵高時代に指導した卒業生らを中心に、正団員は20人程になる。

　現在の現役生は３年生１人、２年生３人の計４人。平日は生徒たちのみで練習し、楽団での練習は、日曜日に同校の協力を得て、校舎の一室を借りて行われている。

　現顧問の藤城さんは「学校をはじめ地域の人が現役生のことを第一に考えてくれるのは、とてもありがたい」と感謝。「これまで人数が少ないと演奏したい曲ができなかったが、楽団があることで、大勢での演奏機会が得られ、挑戦したい曲が演奏できる。また演奏だけでなく社会経験を学ぶ機会にもなっている。どこの学校でもできる事ではない」とその意義に敬意を表する。今年の夏には、合同チームでのコンクール出場が解禁となり、明朋高との合同チームで出場した。

　現役生唯一の３年生でトランペット担当の谷田川暁陽（としひろ）さんは、30人以上部員がいる強豪中学校の出身。当初は部員の少なさに戸惑いはあったものの、「音楽の形に決まったものはないので、さまざまな人たちと演奏するのは楽しい」と語る。

新しい｢居場所｣

　同校の卒業生で、７年前の３校ジョイントコンサートに現役生として参加した松本龍弥さん（22）は、都内から練習に駆けつける。｢絆の楽団｣には今年が初参加。卒業以来４年のブランクがあった担当のバリトンサックスは、カラオケボックスを借りて自主練習をはじめた。「楽器は一緒に演奏してこそ。メインパートではないが、後ろから支えたい」と意気込んだ。同じくＯＢでトロンボーンの遠藤翔音（しょーん）さん（18）は、「角田先生とやれるなら」と参加。「現役時代よりも気が楽で楽しい」と微笑んだ。同校吹奏楽部の元部長でトランペット担当の平柳和（なごみ）さん（19）は、友人に誘われて参加した。「卒業後、演奏する場所がなかったのでとても楽しい。楽団がある限り続けたい」とサポートを約束した。

　今宿町の須賀揚子（あきこ）さん（42）は３年ほど前から同部のインストラクターとして関わっている。「むちゃくちゃ楽しい。生徒たちの目線に立ち、自身の経験からサポートを心がけるが、自分自身にも学びがある」と感謝する。二俣川に住む倉崎眞智さん（61）は、本紙に掲載された演奏者の募集記事を見て応募した。「一人ひとりが大切にされる居場所があるのは大きい」と人生の後輩たちを優しく見つめた。

　旭陵高は、２０２７年に旭高との統合が決まっており、「絆の楽団」の存否は未定。角田さんは「心から旭陵が消えないよう、卒業生たちの帰ってくる場所があると良いな、と思う」と希望を口にした。

　演奏会は来年３月10日（日）、旭公会堂で開催予定。入場は無料。