2024年の幕開けにあたり、本紙は福田紀彦川崎市長に恒例の新春インタビューを行った。就任から10年を振り返るとともに、市制100周年を迎え、持続可能なまちづくりに向けた成長戦略のビジョンについて語った。(聞き手/本紙川崎支社長・有賀友彦)
――市長就任から10年を迎えました。今の率直な思いと、市政運営で手応えを感じている点、今後の課題はありますか。
「この10年、スピード感を持って取り組み、まちの風景も制度も随分変わったと思います。例えば、看板政策だった中学校給食の導入は喜びの声を多くいただきましたし、待機児童対策も3年連続でゼロを達成できました。小児医療費の助成も段階的に増やしてきました。新型コロナにより市民との交流が途絶え、影響を及ぼした面もありましたが、一段落した今、誰もが安心して住み続けられるための地域包括ケアシステムの構築が重要と考えており、着実に進めていきます。一方で、課題の一つは産業構造の変化です。川崎市はこれまで京浜工業地帯の一角を担い、CO2を排出して成長してきましたが、今世界は脱炭素の時代です。鉄鋼大手・JFEスチール東日本製鉄所の高炉が昨年9月に休止し、まさに今年は『脱炭素のまち川崎』として新たな方向へと歩む元年になる気がしています。引き続き、新鮮な気持ちで緊張感を持って取り組んでいきます」
――今年は市制100周年を迎え、全国都市緑化かわさきフェアも開催されます。市内各地でその準備が進められていますが、この機会に改めて市民に伝えたいことや、市長自身が感じる市の魅力とは何か。また、それらを市外にどう発信していきますか。
「まずは100年を機に、昔から住んでいる人も、今日から市民になった人も、積極的にまちに関わり、多くある川崎の魅力を感じてもらい、幸せを育み合ってほしいと思います。私が常に感じている川崎の最大の魅力は、大都市でありながら人間味豊かな温もりのある人と、そのつながりです。どこか田舎っぽさもあって、優しさが溢れている。昨年は東海道川崎宿が起立し400年となりましたが、昔から人を受け入れ、出会いを大切にしてきた川崎のDNAが今も受け継がれていると強く感じます。そんな中で、緑化フェアは市内3会場を中心に開催し、約160万人の来場者を見込んでいます。工業都市でもある川崎が、自然や緑豊かなまちでもあるという魅力を、あらゆる手段で市内外に発信していきます」
健康アプリ「想定以上」
――昨年は麻生区が「日本一長寿のまち」として注目され、市でも健康を推進する新事業「かわさきTEKTEK(てくてく)」が始まりました。健康寿命への関心が高まる時代、市民の生きがいをどう支えていきますか。
「この事業は私の公約の一つで、歩くことでポイントを自ら得るだけではなく、それを子どもたちに還元する点に価値があります。健康への取り組みが人のためにもなる『健康循環社会』との発想で、楽しみながら健康になり、周囲も幸せにする仕組みです。主なターゲットは30代から50代で、生活習慣病予防に効果的とされる1日8千歩を目標に、高齢者になっても寝たきりや介護の予防につなげ、健康寿命を延ばすことを目指します。長期的な取り組みですが、若い時からの意識付けが大切で、今後はイベントも実施しながら推進していきます。活用の幅も、例えばスポーツ、食事、環境など、他の要素とも上手く組み合わせることで広がります。すでに民間企業数社にも賛同をいただいておりますが、さらに協力を呼び掛けていきます」
――TEKTEKはアプリでの利用ですが、登録者数は想定通りに増えていますか。
「想定以上です。3年間で市民の1%(1万5千人)ほどを目標にしていましたが、10月の導入から2カ月かからず3万人を超え、関係者も驚いています。うち70%以上が対象世代とのことでうれしく思っています」
――まちづくりに関しては、登戸、鷺沼、川崎、横浜市営地下鉄の延伸など、大規模事業が予定されていますが、物価高騰が地域経済にも影響を及ぼす中、方針や予定に変更はありますか。また、公共施設の耐震化不足やインフラの老朽化が課題になっています。
「事業の予定変更は今のところはありません。登戸の土地区画整理事業は2025年度の完了を見据え、鷺沼は一部計画の変更はあったものの都市計画決定により着々と事業を進めています。まちを再生することで持続可能なまちづくりを目指します。老朽化については、新たな施設を望む声もありますが、建物にかかるコストの約9割は維持管理費が占め、その試算も難しい面があります。2030年度以降に人口減少も見込まれていますので、今新しく建てるのではなく、利用方法や視点を変えることで、可能性は広がり、地域密着で利活用できると思います。例えば、今取り組んでいる学校の教室シェアリングや校庭開放は、年代や目的が別でも、場所や時間を共有でき、質を高めつつ財政負担を軽減することができます。こうした資産マネジメントの考え方も踏まえ、公共施設がどうあるべきかを、市民の皆さんと対話し検討していきます」
――物価高騰が市民生活に影響を与えていますが、経済対策などは考えていますか。
「エネルギーや物価などへの対応はいち自治体では限定的なので、国による低所得者への給付などの支援における事務執行を迅速に進め、国との役割分担を明確にしながら取り組んでいきます。市としては、一時的ではなく将来に繋がるような支援に力を入れていく必要があると思います」
川崎モデルを全国へ
――この先のビジョンとして、脱炭素に向けた水素エネルギーへの転換、GIGA端末による学習状況調査などの教育改革、市が県の機能を持ち権限や財源を一本化する特別市の実現に向けた動きなど、いち自治体にとどまらない政策も進められています。
「産業利用として注目される水素エネルギーはこの10年、職員一丸で取り組み、やっと形になってきました。川崎市が液化水素の受入地となり、今後は東京や横浜、千葉などの東京湾全体の需要家を束ね、水素サプライチェーンを構築し、市の利益だけでなく国のエネルギー政策を担っていく責任があると考えています。学習状況調査については、小学4年から中学3年までの6学年を対象に昨年4月から始め、11月に分析結果を公表し、そのデータにより課題点などが可視化されました。これを児童生徒や保護者、教員が上手く活用することで、川崎の教育レベルは飛躍的に高まると思います。これも川崎モデルとして、日本の教育を変えていけるよう、全国へ発信していきます。特別市については昨年、川崎市全町内会連合会から要望書も受け取りましたが、市民の理解を深めると同時に、法律を変えてもらうことが必要なので、国会議員や関係機関にも働きかけていきます。指定都市市長会の担当市長として経済同友会に説明した際も賛成の声をいただきました。日本の成長につながる大きな制度改革を、川崎市をはじめ日本全体の成長戦略として、今年も全力で推進していきます」
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