約60年前に地元で親しまれていた音頭に新たな息吹―。箭幹(やがら)八幡宮がある矢部町に昔から伝わる「下矢部音頭」を復活させようと、矢部町内会(秋元富美生会長)では桜美林大学に協力を依頼。同大芸術文化学群・音楽専修の松岡邦忠教授と、同大卒で現在プロとして活躍している岡村実和子さんの協力のもと、夏祭りの盆踊りで披露するためのCD製作に取り掛かった。
終戦直後の矢部町は「下矢部」と呼ばれ、その当時の場景を描写した下矢部音頭は盆踊りで大勢の人に歌われ、踊られ、親しまれてきた。しかし年月が経つとともに、当時を知る住人が減り、いつしか忘れ去られていったという。
「せっかくの地元の音頭がこのまま廃れてしまうのは惜しい」と2年前、町内の活性化を願う住人の一人が自費出版でCDを製作しようと試みた。しかし予算面などで折り合いがつかず消滅。その話を町内会が引き継ぐ形で今回の動きとなった。
遠い記憶から
秋元会長(67)は「小学生だったからもう60年も前だね。友人が盆踊りの際に、蓄音機の針を置く手伝いをしていたと記憶しているよ」と振り返る。「だからレコードとして音源があったはずなんだ。それがあればもっと簡単だったのに」
町内会に残っていた文献から、下矢部音頭を作詞したとされる「八木健吉」氏は同町内会の総務を担当する八木滋さん(65)の叔父にあたる。八木さんは「叔父は俳句や郷土史を書いていた。作詞したのも頷ける」と話す。詩の中には地名のほか「七曲り」や「片倉」など当時地域で使われていた名称が記されている。
歴史を守り、踊り継ぐために
CDを製作するにあたり、昔の記憶をもとに女性住民らが歌った曲を松岡教授が譜面に起こした。それを町内会の代表の人々に聴いてもらいながら、微調整を繰り返した。
歌は松岡教授の元教え子で、現在はプロとして活躍、また声楽の講師でもある岡村実和子さんが担当。打ち合わせが行われた19日には町内会の人々の前で、演奏に合わせて歌唱を披露。住民の喝さいを浴びた。
松岡教授はJR横浜線淵野辺駅のホーム発車メロディの編曲を手掛けるなど、これまでにも地域に貢献する活動を行っている。「普段と違う仕事。また昔の記憶を頼りにしているので、人によって変わる意見を合わせていくのに苦労しました」とコメント。岡村さんは「譜面通りに歌うと固いと感じたので、抑揚をつけるなど工夫しました。『こぶし』を入れたほうがよいのか、家で親に聴いてもらったり」と笑い、「喜んでもらえて嬉しい」と感想を述べた。
秋元会長は「とても楽しみ。盆踊りでこの曲に合わせて踊る町内の人々が想像できる。当日岡村さんをゲストに呼んで、生歌を歌ってもらうのもいいね」と喜びの声を上げた。
下矢部音頭は2月中に同大のスタジオで録音され、町内会念願のCDという形になって、矢部町に残る。
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