町田 コラム
公開日:2026.02.26
町田天満宮 宮司 池田泉
宮司の徒然
凪
愛知県豊川市の砥鹿(とが)神社は三河の国一の宮と称される大社。その里宮の社殿前に見慣れぬ木があった。それは関東・東北にはあまり見られない「梛(なぎ)」という木で、25mにもなるとのこと。常緑の葉はスリムで鮮やかな緑に艶があり、縦の葉脈が目立つ。主に近畿から九州の暖かい地方に多く、「なぎ」が「凪」と通じることから、波風のたたない静かな状態が平穏・安全な様子を顕して、葉を旅や交通安全・家内安全のお守りとして持つ地方もあったり、葉を横方向に割くことが硬くて困難なことから、縁結びや夫婦円満のご利益があるらしい。ちなみに、海に風波(かざなみ)さえたたない池のような状態は、猟師や海釣りの用語で「ベタ凪」と言い、海に活性がなく不漁になる傾向があり、反対に海が荒れることを時化(しけ)と言い、経済や生活が荒れた状態や不景気なことも表したりする。
そんな梛の苗木をふとしたことで手に入れた。耐寒性が弱い梛は鉢植えにして室内に入れた。まだ30センチにも満たないから、順調に育っても境内にデビューするのは何十年先だろうか。南方系のアボカドの時と同様に、ある程度まで育てば地植えも可能だろう。私は天空の幽世(かくりよ)から眺めるのかもしれない。なんとなく、次世代のために苗木を植える林業従事者の気分だ。
来週あたりから厳しい寒さが緩むのはうれしいが、そのかわりに花粉が飛び始めるらしい。還暦を過ぎてから免疫力低下のせいか花粉症になった私には、春の気配はなんとも複雑な思いだ。だが日本の誇れる四季の移ろいとして有難く受け止めるしかないし、この移ろいが樹木を大きく強くしていくのだから。
政治、紛争、関税、物価。世界中、日本中、そして衆院解散総選挙は、市長・市議選に重複したわが地元まで巻き込んで落ち着かない大しけの年頭。ベタ凪は望まないが、この日々が適度な凪の静けさを迎えるのはいつになることやら。幼木ながら梛の御利益に期待。
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