明日開催される「のりフェスタ」の中心メンバーとして活動する海苔生産者 長塚 由美さん 走水在住
時代の荒波から伝統守る
○…県内随一の生産量を誇る走水の海苔は、海水と淡水が交わり栄養分豊富な漁場で育まれる。味の濃さ、輝く艶、芳醇な磯の香りの三拍子が揃う名品だ。養殖は1960年代から、漁閑期となる冬場の収入確保のために始まった。25軒ほどあった工場も後継者不足などで今は10軒残るのみ。「時代の波に流されぬよう伝統の味を守りたい」春までは日の出前から深夜まで息つく暇なく作業に追われる。
○…出身は追浜。嫁ぐ前まで「走水の海苔」を聞いたことも食べたこともなかった。海苔中心の生活は習うより慣れろと自分の目や舌の感覚を頼りに徐々に物にしてきた。20年が経過、技術は熟達し、プロとしての自負も芽生えた。そんな職人夫婦の会話は専ら海苔が主役だという。「作業についての言い合いは日常茶飯事」と顔を見合わせて笑う。日々、生み出される逸品には夫婦の深い絆と職人魂が込められている。
○…自然相手の仕事柄、思うようにいかないことの方が多い。近年では東京湾三番瀬などの埋立てにより、10年程前から住処を追われたカモが越冬のため飛来。海苔の新芽を根こそぎ啄まれる食害に悩まされている。また、気候面では温暖化が原因とされる海水温上昇で11月初旬の初摘み時期になっても大きく育たず、生産量に影響している。しかし、海との駆け引きがあるからこそ漁師は面白く、良質な海苔が作れた時の充実感は何にも代え難い。
○…漁協の「のりフェスタ」開催の他に、ボランティアで地元の子どもらを対象に定期的に海苔漉き体験教室を開く。走水ブランド存続のため、美味しさと地場産業の大切さを理解してもらうのが狙いだ。海苔業界を取り巻く環境は厳しい。食の欧米化でパン食へと変わり、後継者不足、安価な中国や韓国産海苔の流通と行く末は決して明るくない。「でも、自分たちが何とかしなきゃ」悲嘆せず今できることを笑顔で堅実に懸命に積み重ねていく。
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